「排泄するロボット犬」がアート・バーゼル・マイアミ・ビーチを席巻。1体1500万円の作品は初日で完売

アート・バーゼル・マイアミ・ビーチで最も話題を集めたのは、ビープルが手がけたロボット犬だった。イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグの顔をもつ犬たちが画像を「排泄」するたびにどよめきが起き、会場は熱気に包まれた。

ビープルの《Regular Animals》が展示されているブースで写真を撮る来場者たち。Photo: Daniel Cassady

アート・バーゼル・マイアミ・ビーチは、SNS時代の一瞬で目を奪う見せ方を極めたようだ。デジタルアートが集結する「Zero10」セクションでは、6体のロボット犬が用を足すたびに、どよめきが起きていた。

《Regular Animals》と題されたビープルによる本作は、ディストピアを描いた風刺作品であると同時に、スラップスティック・コメディでもあるインスタレーションだ。囲いの中にいるロボット犬(ブタのようにも見えなくない)には、イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグ、ピカソアンディ・ウォーホル、そしてビープル本人の不気味なまでにリアルな頭部が取り付けられている。犬たちは身体をピクピクさせながら徘徊し、ときにぶつかり合い、おそらく劇的効果を狙って計算された間をおいて尻から画像を射出する。一見すると、大衆受けとは無縁の奇妙な作品だ。しかし、現代の観客が求めるものを最も正確に捉えた作品なのかもしれない。

抽象概念を可視化する作品で知られるビープルは、アルゴリズムに支配された現代社会を体現した作品を作り上げた。厚いアクリル板の囲いに入れられたロボットたちは、小型カメラで周囲を絶え間なく撮影し、その映像を瞬時に解釈して、現実世界を単なる産業廃棄物として扱い、画像を吐き出していく。各ロボットは、取り付けられた頭部が象徴する人物の作風に合わせて画像を生成するよう設計されており、これは、SNSがカメラのフィルターを通して世界を見るよう仕向ける、その構造をそっくり再現している作品だ。実際、ウォーホルの頭がついた犬はウォーホル風の画像を、ピカソの頭がついた犬はピカソ風の画像を出力した。

イーロン・マスクの頭がついたロボット犬。Photo: Sean Zanni/Patrick McMullan via Getty Images
展示されていたロボット犬たち。左はアンディ・ウォーホル、右はジェフ・ベゾス。Photo: Sean Zanni/Patrick McMullan via Getty Images
ビープル《Regular Animals》の展示風景。Photo: Sean Zanni/Patrick McMullan via Getty Images

有名人の顔をしたロボットによる監視という構図は、熱に浮かされた時に見るフィリップ・K・ディック風の悪夢のようだ。しかし、最も印象に残ったのは作品を鑑賞する人々の顔だった。Instagramの投稿を見て展示場所に駆けつけたという女性来場者は、囲いの中で生き生きと動くロボットたちに魅了されていた。彼女と話している間も、四足歩行のロボットから目を離さなかった。「ロボットと人間が融合しているみたいですよ。動く時の皮膚の揺れとか。衝撃的な作品ですね」

ザッカーバーグ犬がついに画像を出力すると、群衆は恍惚に近い反応を見せた。先述の女性来場者は「恥ずかしいけど、なんだか楽しい瞬間だった」と語り、会場全体で湧き上がった高揚感に驚きを覚えたという。

「ロボットのお尻から写真が出てきて、みんな歓喜していました。そんな瞬間を待ち望んでいたなんて、誰も思っていなかったでしょうね」

AI、自動化、そしてSNSが現実を作り上げている状況への恐怖が広がった年に、ビープルはそういった不安の捌け口となる作品を生み出したかのように見える。だが、人々は実際に何を見ているのだろう。囲いの周りに集まった鑑賞者の多くはスマートフォン越しにしかロボット犬たちを見ていない。果たしてこれもギャグの一部なのだろうか。

匿名を条件に取材に応じたディーラーは、ビープルの作品を「退廃的」と評していた。この大仕掛けの作品はマスに迎合し、複雑さを回避すると同時に、薄っぺらいアイデアを派手な技術で覆い隠していると語り、こう続ける。

「この作品は、アート業界における学術性の欠如を示す最たる例です。人々の関心を集められる点は評価できます。しかし、このプロジェクト全体がデジタルアートやビデオアートの歴史を軽視し、安易な見せものにしています。正直、悲しいですね」

こうした意見がある一方で、アートマーケットの反応は上々だった。複数のメディアによれば、1体10万ドル(約1550万円)で販売されていたロボットはVIPデーの初日が終了するまでに完売したという。今年から新設された「Zero10」は、他のセクションと比べて圧倒的な数の来場者が訪れていた。これがデジタルアートの真価を示すものなのか、それとも単にアート・バーゼルが話題を追った結果なのかは判断が難しい。だが、会場は熱気に満ち、ビープルがその中心にいたことだけは確かだ。

AIが目覚ましい発展を遂げ、自動化が急速に進む現在、この作品は人々が笑いながらその未来と現実を受け入れた稀有な例だった。世界を作り変えようとする機械を理解するには、その排出プロセスがどれほど滑稽に見えようとも見守る必要があるのだ。(翻訳:編集部)

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