フリーズ・ロンドン、開幕直後からラウシェンバーグなど高額作品が次々成約。市場に回復の兆し?
ロンドンのアートフェア「フリーズ・ロンドン」が開幕。初日からラウシェンバーグやクラッグらの高額作品が相次いで成約し、停滞していた市場に回復の兆しが見え始めている。

典型的な曇り空の下、ロンドンのリージェンツ・パークでフリーズ・ロンドンがVIPプレビューから開幕し、早速熱気を帯びていた。午前11時に始まったVIPプレビューには、ドイツ人スーパーモデルのクラウディア・シファーをはじめ、多くの来場者が詰めかけた。巨大なテントの中では、頬にキスを交わし、奇抜なファッションを披露しながらも、何よりも積極的に作品を購入するコレクターたちの姿が目立った。午後2時の時点で、複数の主要ギャラリーがUS版ARTnewsに対し、「朝から好調な売上を記録している」と報告した。
昨年、フリーズは会場構成を刷新し、巨大ギャラリーを2本の長い通路の奥に配置。来場者がその途中で中小ギャラリーにも立ち寄るよう設計された。今年もそのレイアウトが採用され、多くの関係者に好評だ。ニューヨークのアレクサンダー・グレイ・アソシエイツを率いるアレクサンダー・グレイはこう語る。
「このレイアウトは素晴らしい。今年も継続してくれて嬉しい。小規模ギャラリーにとって非常に良い仕組みです」
グレイはすでに、ジョーン・セメルによる1983年の作品《Self-Portrait on the Couch》を個人コレクターに販売したという。
メガギャラリー勢、ラウシェンバーグやクラッグらの高額作品を販売
テント奥のメガギャラリー・ゾーンでは、タデウス・ロパックがロバート・ラウシェンバーグの《Polls》(1987)を85万ドル(約1億2800万円)、トニー・クラッグの滑らかな木彫《Ivy》(2016)を42万ドル(約6400万円)、さらにアンソニー・ゴームリーのコールテン鋼による《Open Ache II》(2023)を販売した。
「今回のフリーズで最初に売れた作品のひとつがラウシェンバーグでした。今年は彼の生誕100年でもあり、来週パリのギャラリーで開催する個展の前に、ここロンドンで節目を示す意味で出展しました。地元のコレクターに購入いただけたのは嬉しい」とロパックは語る。
彼はさらにこう続ける。
「ロンドンでは今週すでに非常に忙しい日々が続いています。今年はフェアの熱気が例年よりも早く始まった印象です。市場はここ数か月の低迷期を抜け、やや回復傾向にあります。今のところ関心も売上も好調で、この勢いが年末に向けて良い流れを生みそうです」
すぐ近くのガゴシアンのブースは、ギリシャ建築のフリーズ(装飾帯)を思わせる大胆な構成で注目を集めた。ロサンゼルスを拠点とするアーティスト、ローレン・ハルジーによるポリマー改質石膏製の新作《無題》を含め、同ブースの作品はすべて完売。ハルジーの彫刻《LODA PLAZA》(2025)は正午前に売約済みとなった。会場のムードは明るく、活気に満ちている。
ハウザー&ワースでも作品が次々と「棚から飛ぶように」売れている。同ギャラリーによれば、ロンドンの新鋭ジョージ・ルーイによる《DESIRELINE II》(2025)が27万5000ポンド(約5500万円)で成約。さらに、エレン・ギャラガーの《Lips & Paper》(1993)が95万ドル(約1億4300万円)、エイヴリー・シンガーの《Lost Boccioni》(2025)が80万ドル(約1億2000万円)、ヘンリー・テイラーの《Untitled (Portrait of Reign Judge)》(2025)とキース・タイソンの《Still Life Emerging From The Rocks of the Earth》(2022)がそれぞれ30万ドル(約4500万円)で売れたという。ジョージ・コンドの《Head Composition》(2025)は20万ドル(約3000万円)、高嶺格の《Propagation 25-B》(2025)は25万ドル(約3800万円)、シンディ・シャーマンの《Untitled #650》(2023)は20万ドル(約3000万円)で販売された。
このほか、ジェニー・ホルツァー、ローナ・シンプソン、アリソン・カッツ、アンジ・スミス、キャサリン・グッドマン、イ・ブル、アンヘル・オテロらの作品も、4万〜28万5000ドル(約600万〜4300万円)の間で取引されたという。
ハウザー&ワースはフリーズ・マスターズでも好調を維持。1909年のガブリエーレ・ミュンター《Der blaue Garten (Mein Gartentor)》が約300万ドル(約4億5200万円)、ルネ・マグリットの1953年の絵画《Le domaine enchanté》が160万ドル(約2億4100万円)、パウル・クレーの1929年作《Befestigter Ort》が約169万ドル(2億5500万円)で売約となった。さらに、マルセル・デュシャンによる1956年のペン&インク作品《Jaquette》が135万ドル(約2億400万円)、アリーナ・シャポチニコフのランプ彫刻が120万ドル(約1億8000万円)、ジャック・ウィッテンの1967年作《Scenes From My Travels Through Space》が75万ドル(約1億1300万円)、マン・レイによる1946年の無題作品が約44万(約6600万円)ドルで販売された。このほかにも、アルベルト・ジャコメッティ、メレット・オッペンハイム、フランシス・ピカビアらの作品が成約したという。
向かいのホワイト・キューブは、フェア開幕以来すでに6点の販売を報告。サラ・フローレスの絵画2点と、マルグリット・ユモーによるブロンズ彫刻2点──《Venus of Courbet, A 80-year-old female human has ingested the brain of a swallow》(2018)および《Superior Oneness, A 70-year-old female human has ingested an alligator’s brain》(2018)──を含む。ブロンズの価格は8万ドルから最大26万7000ドル(約4000万円)に達した。
市場に回復の兆し、慎重ながら確実な動き
ロンドンを拠点とするファイン・アート・グループのディレクター、ポーリン・ハオンはARTnewsへのメールで「エネルギーは非常に良好」とコメント。
「会場では着実に取引が進んでおり、市場は“新たな常態”にあるようです。意思決定には以前より時間がかかるものの、優良コレクターが確実に存在し、重要作品への確かなリザーブ(仮予約)も入っています」と彼女は述べた。「ただし、この落ち着いたペースとは別に、いくつかのギャラリーは来週の『アート・バーゼル・パリ』に向け、トップティアの作品を戦略的に温存しているようです」

ロンドンとニューヨークに拠点を持つティモシー・テイラー・ギャラリーは、ロンドンのアーティスト、ダニエル・クルーズ=チャブによる大作5点を7万〜9万5000ポンド(約1400万〜1900万円)で販売したと報告。
「フリーズ・ロンドン初日のわずか2時間で、強いエネルギーを感じます。来場者は明確な目的を持って来ており、実際に購入しています」とテイラーは語る。「雰囲気は集中していながらも楽観的。少なくとも今週に限っては、ロンドンがその評判通りの活気を取り戻したことは明らかです。市場は再びリズムをつかみつつある」
ピーター・ブルム・ギャラリーも、ニューヨークを拠点とするアーティスト、レベッカ・ウォードの作品6点すべてを計12万5000ドル(約1900万円)前後で販売したという。「形式的な厳格さと精神的な実践の双方を結びつける作品に対する需要が非常に強い」とギャラリストのピーター・ブルムは語った。
ペロタンは具体的な金額を明かさなかったものの、「現在のところフリーズでも、メイフェアのギャラリーで開催中のローラン・グラッソ個展でも順調な滑り出し」とコメントしている。
中小ギャラリーも健闘、若手作家に注目集まる
巨大テントの前方エリアでは、中小ギャラリーが作品を展示。ロンドンのギャラリー、ジニー・オン・フレデリックは、持ち込んだ2点をすでに販売したと報告した。どちらも英国人アーティスト、アレックス・マーゴ・アーデンによる《The Accounts》(2025)と《Daily Departmental Accident Record》(2025)で、価格はそれぞれ2万〜3万ポンド(約400万〜600万円)の範囲だった。
「ロンドンで開催されるフェアに参加することは、ギャラリーの理念やプログラムを地元の新しい観客に紹介する絶好の機会です」と創設者のフレディ・パウエルはARTnewsに語る。
「ブースは今朝のうちに完売しました。アレックスの彫刻《The Accounts》はアーツ・カウンシル・コレクションに収蔵されます。彼女の実践は、演劇的手法を通じて権威・真正性・労働を問い直すもので、今日の社会において極めて重要なテーマです。彼女の作品がイギリス美術史の正典に加わることを非常に誇りに思います」
新たにカスミンの後継として発足したオルニー・グリーソンは、最も高額な販売作品として、ロバート・インディアナの1959年作《Source Egg》を20万ドル(約3000万円)で販売したと報告。ダイアナ・アル=ハディッドの新作《Secret Sunset》(2025)は9万ドル(約1400万円)で成約。さらに、サラ・アンステスの作品を1万〜5万ドル(約150万〜750万円)の範囲で複数点、シンシア・ダーニョーの作品2点をそれぞれ1万8000ドル(約300万円)と5万ドル(約800万円)で、アレクシス・ラライボの作品を2万ドルと4万ドルで販売した。そのほか、ヴァネッサ・ジャーマンの新作が3万2000ドル(約500万円)、リン・リウの油彩が1万2000ドル(約200万円)で売れたという。
リーマン・モーピンも価格は非公開ながら、テート・モダンで個展「Walk the House」を開催中の韓国人アーティスト、ド・ホ・スの作品15点を販売したと明かした。
中小ギャラリーの販売動向など、さらなる詳細は追って報告される予定だ。続報を待ちたい。(最終更新:英国時間 午後8時34分)
(翻訳:編集部)
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