フリーズ・ロンドンが気候対策イニシアチブを始動。売上の一部を寄付、業界の環境負荷低減に貢献

ロンドンで10月に開幕するフリーズ・ロンドンとフリーズ・マスターズで、22の有力ギャラリーが新イニシアチブ「10% Of」に参加する。作品売上の一部を気候変動対策団体に寄付し、アート業界の環境責任を問う試みだ。

Thomas Demand, Eis, 2025. ©2025 Thomas Demand, VG Bild-Kunst, Bonn/ Courtesy Sprüth Magers
「10% Of」対象となることが発表された、シュプルート・マガーズ所属のトーマス・デマンドによる《Eis》(2025) ©2025 Thomas Demand, VG Bild-Kunst, Bonn/ Courtesy Sprüth Magers

10月15日から19日まで開催されるフリーズ・ロンドンとフリーズ・マスターズで、新しい気候対策イニシアチブがスタートする。「10% Of」と名付けられたこの取り組みは、フェアに参加する有力ギャラリーが、作品売上の10%をロンドンを拠点に気候変動対策に取り組む非営利団体「ギャラリー・クライメート・コアリション(Gallery Climate Coalition、以下、GCC)」に寄付するというもの。

GCCの「資金調達と可視化のためのイニシアチブ」に位置付けられる「10% Of」に参加するのは、両フェアに出展する計280超のギャラリーのうち、ブルーチップを含む22軒(全体の約8%)。参加するのはいずれも招待を受けたギャラリーで、ガゴシアンハウザー&ワースタデウス・ロパックリッソンギャラリー、シュプルート・マガーズ、トーマス・デイン・ギャラリー、セイディ・コールズHQヴィクトリア・ミロ、ホリーブッシュ・ガーデンズなどが名を連ねる。

GCCは、2030年までにアート業界の二酸化炭素排出量を50%削減することを目標に掲げている。今年、設立5周年を迎えるにあたり、フリーズに対しこの構想を提案した。GCCディレクターのヒース・ロウンズはUS版ARTnewsへのメールインタビューで、「市場に自然に組み込め、かつ強いインパクトを持つ寄付の新しいモデルをつくる好機と考えた」と語っている。

参加ギャラリーは各ブースから少なくとも1点を「10% Of」対象作として選出し、その売上の10%をGCCに寄付する。数字だけ見れば小さく思えるが、ロウンズは、「小さな行動を積み重ねることで、より大きな成果が生まれる」と強調する。対象作品は、フェア開幕前の10月4日から公開される専用オンラインビューイングルームで事前に閲覧可能だ。現在までに発表されているのは、シュプルート・マガーズ所属のアーティスト、トーマス・デマンドによる《Eis》(2025)。

プロジェクト名「10% Of」は、ギャラリーが重要コレクターにしばしば提供する10%の値引きに由来すると同時に、アーティストのゲイリー・ヒュームが2021年のオプエド(社外筆者からの寄稿記事)で語った言葉に基づく。彼は当時、「私は環境活動家とまでは言えない。せいぜい『10%の活動家』だろう。でも多くの人が同じ10%を担っていて、それが積み重なれば意味ある力になる」と述べていた。

アート業界においてフェアは、最大規模のカーボンフットプリント(製品のライフサイクル全体において排出されるCO2を含めた温室効果ガス排出量をCO2に換算したもの)を生み出す場と言われる。世界中からの輸送に加え、ディーラー、コレクター、キュレーター、アーティストが移動が主たる排出源だ。ロウンズは、「航空移動、会場のエネルギー消費、使い捨て廃棄物を考えれば、フェアと連携する意義は明らかだ」と語る。

フリーズのビジネス・ディベロップメント部門のディレクター、ロミリー・ステビングスは声明で、「フリーズはGCC設立5周年を『10% Of』という新イニシアチブで祝えることを誇りに思う。資金を集め、気候行動をめぐる議論を広げることで、アート界がより環境に責任ある未来を描き、追求するよう促している」とコメントした。

GCCが収集したデータによれば、ギャラリーの年間排出量の約3分の1がアートフェア参加に起因し、そのうち推定7割が航空輸送に由来するという。ロウンズは、「『10% Of』はアート業界全体の脱炭素化に向け、中心的な場であるフェアが協調的かつ効果的なアクションを起こすための重要な支持表明だ」と位置づける。

これまでGCCはフリーズ・ロンドンやアート・バーゼル、ミラノのMiArtなどにブースを構え、存在感を示してきた。しかし、物流や設営など、小規模団体には大きな負担が伴ったことから、「10% Of」は協働を基盤としつつ、より簡潔で拡張可能な方法として構想された。

フリーズ・ロンドンとフリーズ・マスターで集めた寄付金は、ニューヨーク近代美術館でヘレン・フランケンターラー財団やタイガー財団と共催した「Climate Conversations Conference」などの活動を支えるために用いられる予定。またアーティストに向けた環境責任ツールキットの発表や、13のアートフェアが共同で排出削減に取り組む「アートフェア・アライアンス」の設立にも活用される。さらに、11月に開催される国連の「COP30」に合わせ、ロンドンで「Art+Climate Week」を開催。そこでは、視覚芸術分野の気候対応を総括する初の報告書「GCCストックテイク・レポート」を発表予定だ。

ロウンズは、「私たちの活動の核心にあるのは、気候科学に基づき、アート業界が環境負荷を低減するために必要なツール、枠組み、そして文化的推進力を提供することです」と述べている。

「10% Of」に参加するギャラリーの全リストは以下の通り。

アクセル・ヴェルヴォールト(Axel Vervoordt)
エーデル・アサンティ(Edel Assanti)
フリス・ストリート・ギャラリー(Frith Street Gallery)
ガゴシアン(Gagosian)
ハウザー&ワース(Hauser & Wirth)
ホリーブッシュ・ガーデンズ(Hollybush Gardens)
ケイト・マッギャリー(Kate MacGarry)
リッソンギャラリー(Lisson Gallery)
ピッピー・ホルズワース・ギャラリー(Pippy Houldsworth Gallery)
セイディ・コールズ HQ(Sadie Coles HQ)
ソフト・オープニング(Soft Opening)
シュプルート・マガーズ(Sprüth Magers)
タディウス・ロパック(Thaddaeus Ropac)
トーマス・デイン・ギャラリー(Thomas Dane Gallery)
ヴィクトリア・ミロ(Victoria Miro)
ディーラン・コンテンポラリー(D’LAN CONTEMPORARY)
オクトーバー・ギャラリー(October Gallery)
ピーター・ブルム・ギャラリー(Peter Blum Gallery)
ベリー・キャンベル(Berry Campbell)
マイスターラバルブエナ(Maisterravalbuena)
バスティアン(BASTIAN)
ペドロ・セラ(Pedro Cera)

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