環境・人権問題に関与するスポンサーからの脱却目指す──英博物館協会、倫理規範案を票決へ
9月初旬、イギリス博物館協会が倫理行動規範の更新案を提起した。今回の案で注目されるのは、初めて化石燃料関連企業によるスポンサーシップに言及されたことだ。また、この更新案では「気候や生態系への影響、社会的責任を考慮」した意思決定が求められている。

イギリスの博物館・美術館による会員組織、イギリス博物館協会が、新たな倫理行動規範案を公表した。同協会の会員は9月15日以降、来月行われる年次大会中の10月7日までの期間に、新たな規範案を承認するか否かの投票を行う。
注目すべきなのは、化石燃料関連企業からの資金獲得について、今回初めて言及されたことだ。更新案では、博物館・美術館が「環境破壊(化石燃料を含む)や人権侵害に関与している企業によるスポンサーシップや、自らの価値基準にそぐわないスポンサーシップから脱却」するよう推奨されている。
そして、今後は「それぞれの博物館・美術館の価値観に合致し、地域社会の最善の利益に貢献する倫理的な組織から資金を確保するよう努める」べきだとし、「全ての意思決定において、気候や生態系への影響、社会的責任を考慮すること」が求められている。なお、同協会が最後に倫理規定を更新したのは2015年で、近年は国の法改正に準じた運用が行われてきた。
そのイギリス政府は、今年3月「クリーンエネルギーの未来」計画の一環として、油田やガス田の新規探査の免許を発行しない考えを正式表明。それを受け、これまで美術館などの公共の場で、スープや顔料などを投げつける抗議行動を取ってきたイギリスの環境活動団体「ジャスト・ストップ・オイル」が、結成当初の目標は達成されたとして4月末に活動停止を発表している。
倫理規範の更新案発表について、芸術団体が化石燃料関連企業と金銭的関係を持つことに反対する活動「Culture Unstained(汚点のない文化)」の代表は、アーツ・プロフェッショナル誌の記事でこう述べている。
「新しい倫理規定はイギリスのみならず、世界的にも影響力のある新しい前例を作る機会となるものです。これが採択されれば、気候変動や人権侵害を助長しながら資金を提供するスポンサーは、倫理的なレッドラインを越えていると見なされ、博物館や美術館では歓迎されなくなったという明確なシグナルを送ることになります」
気候変動に対する抗議行動や草の根運動は長年続いており、国際的な調査会社イプソスの世論調査によれば、英国民の77%が気候変動に懸念を抱いているという。そうした中、テートやナショナル・ポートレート・ギャラリー、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなど、イギリスの数多くの文化施設が世論に押され、BPやエクイノールなどの化石燃料エネルギー企業との関係をすでに解消している。
その一方で、ロンドンの科学博物館や大英博物館など、依然としてこの種のスポンサーシップに依存しているところもある。2025年初頭の時点で科学博物館は、BPおよび世界最大級の石炭事業を有する民間企業、アダニ・グループ傘下のアダニ・グリーン・エナジーから資金援助を受けており、大英博物館は2023年にBPと10年間のスポンサー契約を締結した。それについて同博物館の広報担当者は、アート・ニュースペーパー紙にこう語っている。
「大英博物館は公的資金と民間資金の両方で運営され、それによって比類のない所蔵品をこの先何世紀もにわたり一般公開し続けることが保証されます。私たちは、それぞれの寄付やスポンサーシップのメリットを、自らの方針に沿って検討しています。また、公的機関として、多くの資金源から資金を確保することで、財政的な安定性を長期にわたって確実にする義務があります」
上記2館が新たな倫理規範に賛成するのか、今後も現在のスポンサーシップを維持するのか注目される。(翻訳:石井佳子)
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