ハーバードやプリンストンも──米名門大学、美術史大学院を縮小。財政難が人文学を直撃
財政赤字の拡大と連邦助成金の不透明化を背景に、ボストン大学、シカゴ大学、ハーバード大学、プリンストン大学などの米名門校が、美術史を含む人文学系大学院の学生募集停止や定員削減に踏み切っている。高等教育を揺るがす構造的危機が、アートを支える知の基盤を直撃している。
アメリカ各地で深刻な財政赤字が広がるなか、複数の名門大学が美術史の大学院課程の学生募集を停止、もしくは受け入れ人数の削減に踏み切った。こうした動きは、他の人文学系専攻の見直しとも連動している。対象となっている大学には、ボストン大学、シカゴ大学、ハーバード大学、プリンストン大学などが含まれる。
アメリカでは現在、高等教育をめぐる危機が広く議論されている。フィラデルフィアの公共ラジオ局WHYYは2025年11月、州および連邦政府からの助成金の減少、トランプ政権の移民政策による留学生数の減少、そして人口動態の変化による大学進学年齢人口の急減といった要因から、公私立を問わず、多くの大学が「甚大な課題」に直面していると報じた。
シラキュース大学の象徴的転換
こうした状況を背景に、多くの大学で人文学系プログラムが縮小を迫られている。とりわけ注目すべき例として、ニューヨーク州北部に位置するシラキュース大学は、ファインアートやデジタル・ヒューマニティーズを含む20の学部専攻で新規入学の一時停止を決定。一方、ポッドキャスターやストリーマー、インフルエンサーを支援する「クリエイター・エコノミー・センター(Center for the Creator Economy)」を新設した。
人文学系プログラムに対するこうした変更は、トランプ政権がアメリカのエリート大学を標的にしてきた流れとも重なる。政権は、大学が反ユダヤ主義を助長していると非難し、連邦政府の研究助成金を凍結するとともに、大統領が「違法」と呼ぶ多様性・公平性・包摂性(DE&I)推進の取り組みを攻撃。さらに、大学基金に対する課税強化にも踏み切っている。
ボストン大学、シカゴ大学も募集停止・削減

ボストン大学は、2026–27年度の芸術・科学系大学院の入学者募集に関する日付未記載の投稿のなかで、美術史・建築史プログラムが新規受け入れを行わないことを明らかにした。同大学は、同じ措置をアメリカ研究、人類学、宗教学、ロマンス研究などのプログラムにもとっている。また、Inside Higher Educationの報道によれば、同大学はすでに2024年11月の時点で、翌年度は美術史・建築史学科の博士課程学生を受け入れないと表明していた。同メディアが入手したメールによると、同学科を含む芸術・科学学部の学部長らは、「(2024年)10月に、約7カ月にも及ぶ歴史的ストライキを終えた大学院生労働組合が勝ち取った新たな労働協約に伴うコスト増」を、この決定の理由に挙げている。
しかしInside Higher Educationは、労組との契約以前から、博士課程の定員を「適正規模」に調整する取り組みが進んでいたとも指摘する。学部長らのメールでは、「入学選抜の厳格さ、学生の成果、就職や進路、プログラムの評価や評判などの要素を考慮する」としていたという。US版ARTnewsは、大学の広報部門、美術史大学院課程、同課程ディレクターにメール取材を行ったが、現時点で回答はない。
シカゴ大学では、芸術・人文学部門が2026–27年度の美術史の入学者募集を停止することを、2025年9月にウェブサイト上で発表。これは同大学の博士課程の大半を対象とした「一度限りの停止」とされている。同校は11月、2025会計年度の赤字が1億6000万ドル(最新の為替レートで約251億円)に達し、2024会計年度の2億8800万ドル(約452億円)からは減少したものの、依然として大幅な赤字であることを明らかにした。その後、同校のキャサリン・バイカー学務担当副学長は、2030–31年度までに、大学が内部資金で支える博士課程学生数を30%削減する計画を示している。
ハーバード・プリンストンも「財政的圧力」に直面
ハーバード大学においては、学生紙ハーバード・クリムゾンが昨年10月、芸術・人文学部門(美術史・建築史学科を含む)は今後2年間で博士課程の新規受け入れ人数を約60%削減すると報じていた。5人の教員へのインタビューと入手したメールをもとに、一部の学科では博士課程学生数の大幅な減少に備えているという。ある教員によれば、削減後に新たな博士課程枠が1名分しか残らない学科は、新規学生の受け入れを一切認められない可能性がある。
芸術・科学学部長のホピ・E・ホークストラは9月、「著しく抑制された水準」で博士課程学生を受け入れると発表した。ホークストラは、研究助成金の不透明さや、大学基金に対する増税を「財政的圧力の要因」として挙げている。クリムゾン紙は以前、2025会計年度の財務報告において、連邦資金の混乱の影響を受け、同大学が2020年以来初となる1億1300万ドル(約177億円)の営業赤字を計上したと報じていた。US版ARTnewsは、この削減が美術史・建築史学科に与える影響について問い合わせたが、こちらも現在までに回答はなかった。
一方、プリンストン大学の学生紙デイリー・プリンストニアンは、昨年11月、ほとんどの大学院プログラムで2026年秋入学の募集人数が「小幅に削減」されると報じた。また、数億ドル(数百億円)規模に及ぶ連邦研究資金の削減を受け、すべての学科および教育部門に対して、予算を5〜10%削減するよう指示が出されたという。同じく、現時点で大学の美術・考古学科の責任者に送ったメールへの返答はない。(翻訳:編集部)
from ARTnews