ポンペイで1世紀ぶりに「デュオニソスの秘儀」の絵を発見。宴会場の三方を取り囲む巨大フレスコ画

古代ローマの都市ポンペイ遺跡で、宴会場として使用されていた部屋の3つの壁面にまたがる巨大なフレスコ画が発見された。「デュオニソスの秘儀」を描いたと考えられ、西暦79年に発生したヴェスヴィオ火山噴火の100年以上前のものと推測されている。

ポンペイで見つかった「ティアソスの家」のフレスコ画。Photo: Courtesy of the Pompeii Archaeological Park

2月26日にポンペイ考古学公園が発表したところによると、紀元前40~30年にさかのぼるフレスコ画が、大きな宴会場の3面の壁に描かれているのが見つかった。

発掘が行われたのはポンペイのレジオIXと呼ばれる区画で、建物は「Casa del Tiaso(ティアソスの家)」と名付けられた。ティアソスはディオニュソス信仰を持つ人々の存在に関連する言葉で、ディオニュソス教団に入信するためには秘密の儀式に参加する必要があったという。

部屋の壁には、バッカンテと呼ばれる酒神バッカス(デュオニソスの別名)の巫女(みこ)たちが狩りの獲物を運び、踊りながら行進する様子のほか、バッカスに付き従う半人半獣のサテュロスが笛を吹いたりワインを飲んだりする姿、やはりバッカスの従者であるシーレーノスに付き添われた松明を持つ女性、その他ヘビやさまざまな海の生き物が描かれている。

この絵で表現されている物語は、紀元前405年に古代ギリシャ三大悲劇作家の一人であるエウリピデスが著した戯曲『バッカイ』(*1)に由来するものとされる。戯曲では、自分への侮辱に怒ったディオニュソスが自らを信仰する女性たちを引き連れてテーバイの町に現れ、その地の女性たちを狂気に陥らせる。

*1 邦訳版は『バッカイ──バッコスに憑かれた女たち』(岩波文庫)

新たに発見されたフレスコ画の一部について、ポンペイ考古学公園のディレクター、ガブリエル・ズクトリーゲルはこう説明している。

「宙に浮いたような女性の2枚の絵は、一人の女性が両極端を揺れ動くさまを描いたものです。これらは『深い宗教的な意味』を持ち、『豪華な食事や饗宴の場を飾るためのもの』でもありました」

ポンペイでは1世紀以上前の1909年にも、ディオニュソスの儀式を描いた大規模なフレスコ画が発掘されている。「秘儀荘」と呼ばれるこの建物の壁に描写されているのは、ディオニュソスとその花嫁アリアドネを取り囲むバッカンテやサテュロス、翼を持つクピドなどだ。今回見つかったのと同様の形式で作られたこの絵からも、ディオニュソスを信仰するカルトの一端を垣間見ることができる。

2023年2月以来、レジオIX区画では考古学研究者による精力的な発掘調査が続けられており、祭祀所と見られる青い壁の部屋、黒い壁にギリシャ神話の場面が描かれた宴会場、洗濯工場などが発見されている。(翻訳:石井佳子)

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