データが示す「路面アートの事故抑止効果」に反し、フロリダ州は一斉撤去へ

フロリダ州が装飾された100カ所の横断歩道や路面アートを9月4日までに撤去する方針を発表した。銃乱射事件の現場となったゲイクラブの近くに作られた犠牲者を追悼するレインボーの横断歩道はすでに撤去され、市民や自治体からは非難の声が上がっている。

フロリダ州交通局(FDOT)によって塗りつぶされた銃乱射事件の現場付近にある横断歩道をチョークで塗り直すLGBTQ+の活動家。Photo: Ronaldo Silva/NurPhoto via Getty Images

フロリダ州オーランドには、2016年にゲイクラブで起きた銃乱射事件の犠牲者追悼のため、現場付近にレインボーカラーに塗られた横断歩道があった。ところが、「社会的、政治的、その他のイデオロギーに基づいたメッセージ」が込められた路面アートや壁画を撤去するフロリダ州運輸局(FDOT)の新方針に基づき、当局によって横断歩道の路面アートは白と黒に塗り変えられた。

オーランド市長のバディ・ダイアーは、この新方針によってLGBTQ+の犠牲者を追悼する横断歩道が塗り変えられたことに「衝撃を覚えた」と声明を発表。路面アートにより安全性が損なわれることを示すデータや議論もないまま「性急に作品を撤去する州の冷酷な行為は、残酷な政治行為」であると非難している。

今回の撤去対象は、この横断歩道を含む装飾が施された横断歩道や交差点100カ所だが、州政府は9月4日までにすべて撤去する方針を示している。パブリックアートをめぐるFDOTの新指針は、米運輸長官のショーン・ダフィーの「道路の本来の目的は車両や人の安全確保であって、政治的メッセージやアートを発表する場ではない」という発言に基づいて発表されたものだ。これに対して、少なくとも9つの自治体が道路を彩るパブリックアートの撤去に反対しており、州と対立している。しかし、各自治体が撤去を拒否した場合、州と国から受けている数百万ドル(数億円)の交通予算を失う可能性があるという。

一方で、フロリダ州は長年にわたって交通安全の向上を目的とした路面アートの設置を積極的に推進してきた。アーティストのロビン・ヘインズ・メリルが手がけた作品がその好例で、メリルは2016年、自治体から依頼を受け、フォートローダーデールの交通安全プログラムの一環として交差点と横断歩道を彩る作品を手がけた。FDOTからの承認も得たこの作品は、ドライバーが交差点に近づく際の減速効果を狙うと同時に、近隣のエバーグレーズ国立公園を連想させるもの。しかし本作も撤去の対象となっており、FDOTの方針変更についてメリルはアート・ニュースペーパーにこう語っている

「路面アートの撤去は筋が通っていませんし、偽善的だと思います。私はFDOTの基準を満たすために作品を何度も修正しました。(フロリダ州知事のロン・)デサンティスは、鮮やかな色で飾られた道路を毛嫌いしているに違いありません」

撤去対象となったメリルの路面アート。Photo: via threads/@sister_robin

実は、横断歩道や交差点に施された装飾により安全性が向上することは、調査でも証明されている。ブルームバーグ・フィランソロピーズが2022年にアメリカ5州17カ所で実施した調査によれば、路面アートが設置されたことで、歩行者や自転車利用者が巻き込まれる自動車事故は50%減少し、負傷事故は37%減、全体の事故件数も17%減少した。また、歩行者に道を譲る頻度が27%増加し、信号無視での横断は38%減少するなど、行動面でも改善が見られたという。

このような結果が出ているにもかかわらず、FDOT長官であるジャレッド・パーデューは路面アートによって交通安全が脅かされるとしている。現在、路面アートが設置されているフロリダ中の交差点や横断歩道ではこれに対する抗議活動が行われており、歩道には「Free Speech(言論の自由を)」や「We Will Not Be Erased(私たちは消されない)」といった市民の声が記されている。

あわせて読みたい