湖を擬人化した「女神像」、住宅街の地中から姿を現す──トルコ古代都市の1000年史を照らす新発見

2024年から行う発掘調査で、トルコの都市イズニクの住宅街の地中から、古代ローマ時代の鮮やかなモザイク床を含む遺構が新たに見つかった。

トルコの都市イズニクの住宅街で見つかった、3世紀のモザイク床。Photo: Mustafa Yılmaz/AA

トルコ・アナトリア半島北西部、イズニク湖の東岸に位置する都市イズニクの住宅街で行われた発掘調査で、3世紀の鮮やかなモザイク床を含む古代ローマ時代の遺構が新たに確認された。Arkeonewsが伝えた。

この発見の端緒は2014年に遡る。ベイレル・マハレシ地区で進められていた下水道工事中、作業員が偶然モザイク床の一部を発見したことで、工事は直ちに中断された。しかし、モザイクが道路や私有地の下に広がっていたため、発掘権を巡る法的な調整が長期化。ようやく2024年になって、イズニク博物館管理局による全面的な考古学調査が開始された。

考古学者たちによる地層を取り除く作業が進むと、約50平方メートルに及ぶ壮麗なモザイク床が姿を現した。同時に出土した陶器や硬貨の年代、モザイクの様式や素材から、当時ニカイアと呼ばれ、ローマ帝国の文化・行政の拠点として栄えた3世紀に制作されたものと特定された。

トルコ・イズニクの住宅街で見つかった3世紀のモザイク床。Photo: Mustafa Yılmaz/AA
トルコ・イズニクの住宅街で見つかった3世紀のモザイク床。Photo: Mustafa Yılmaz/AA
遺構の全体図。Photo: Mustafa Yılmaz/AA

モザイクのある建物は、浴場複合施設を含む公的な建物か、あるいは豪華な私邸だったと考えられている。建築の壁面はかつてフレスコ画で覆われ、床は大理石の象嵌が施されていたが、その大部分は損傷または撤去され、失われている。だがモザイク部分はテッセラ(モザイクに使用される色付きの小さな石やガラス)の色鮮やかさや綿密な配置はそのままに、驚くほど無傷のままの状態で保存されていた。

最も目を引く場面の一つには、ザクロ、ブドウ、小麦など、古来イズニク周辺で栽培されてきた農産物を満たした籠を手にした豊穣の女神が描かれている。人物像の周囲には神話の登場人物や碑文が配され、大理石や天然石、ガラスのテッセラによる見事な幾何学文様は、当時の熟練職人の高い技能を物語る。依頼主は地域の上層階級、あるいは国家的な事業の一環と考えられる。

さらに注目すべきは中央パネルだ。穏やかな表情を浮かべる女性像の傍らには、イズニク湖の古代名「アスカニア」の文字が記され、湖を擬人化した存在であることを示している。髪は水草のように揺らぎ、蟹の爪を模した冠を戴き、首元には静かな波が描かれる。発掘に携わる考古学者ユスフ・カフヴェジは「この擬人化は、都市を支えてきた水への深い文化的結びつきを象徴しています」と語る。

発掘はローマ期の傑作を明らかにしただけではない。モザイクの上層にはビザンチン時代の床面が重なり、その上からは初期オスマン時代の陶器が出土するなど、この地が3世紀から16世紀まで、1000年以上にわたり繰り返し人々の暮らしを受け継いできた痕跡が確認された。ローマ、ビザンチン、セルジューク、オスマン、そしてイズニクという都市の長い統治史を解き明かす貴重な手がかりとなる。

遺構は現在までに約350平方メートルが発掘されているが、調査は今も続いている。部屋の敷居部分には外向きのサンダルが描かれたモチーフが見つかっており、モザイクはさらに外側へと広がっている可能性が高い。研究者たちは、これらのモザイクが古代ローマ社会における自然観、都市のアイデンティティ、そして神聖性の在り方に、新たな視点をもたらすと期待している。

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