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香港の現代美術館M+、巨匠ザオ・ウーキーの貴重な作品12点の寄贈を受ける

2021年11月にオープンした香港の新しい現代美術館M+が、2013年に93歳で他界した北京生まれの偉大な中国人アーティスト、ザオ・ウーキー(趙無極)の作品の寄贈を受けたと発表した。12点にのぼる寄贈を行ったのは、ザオの継娘にあたるシン=メイ・ロイ・ザオ。

シン=メイ・ロイ・ザオが寄贈したザオ・ウーキー(趙無極)のエッチング作品《Rural Idyll(田園詩)》(1950)  M+, Hong Kong. Gift of Mrs Sin-May Roy Zao, 2020, © Zao Wou-Ki
シン=メイ・ロイ・ザオが寄贈したザオ・ウーキー(趙無極)のエッチング作品《Rural Idyll(田園詩)》(1950)  M+, Hong Kong. Gift of Mrs Sin-May Roy Zao, 2020, © Zao Wou-Ki

M+のステートメントによると、寄贈された12点のほとんどは紙に描かれた作品だ。多作なザオ・ウーキーのキャリアの中で、前衛的な絵画から版画へと移行しつつあった、これまであまり研究されていない時期のものとされる。また、1940年代後半から1950年代初頭にかけての初期の具象絵画も含まれている。この頃ザオは、ジョアン・ミロやアルベルト・ジャコメッティがいたパリで暮らしていた。

「ザオ・ウーキーほどの高い評価を得ているアーティストは多くない。中国の伝統的美意識とヨーロッパ美術の技法を組み合わせ、パリのアート界で名声を獲得した先駆的なモダニストの巨匠だ」と、M+は公式インスタグラムに書いている。

ザオは近現代のアジア美術史でも有数の才能を持つアーティストとされる。その絵画作品はオークションで6500万ドルを超える値がつくなど非常に高価なことから、公立美術館が所蔵品として獲得することが困難になっていた。ヨーロッパのモダニズムと中国美術を巧みに融合させたスタイルが、人気の高さにつながっている。

今回の寄贈には、1950年から2000年にかけて制作された版画9点も含まれている。M+のインクアート担当キュレーター、レスリー・マーは、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙の取材に対し、ザオにとって版画の制作は「すばらしい遊び場」だったと語る。「書や水墨画の伝統の要素を取り入れようとしていたことがうかがえます。ザオの興味を最も掻き立てる技法だったのでしょう」

また、寄贈された二枚の油彩画のうち、《Open Air Theatre(野外劇場)》(1945)は、ザオが具象に踏み出した初期の作品の一つだ。その数年後の作品、《Piazza Siena(シエナの広場)》(1951)には、すでにパリで活動していた外国人画家たち、特にザオに強いインパクトを与えたパウル・クレーの影響が見られる。

1958年、最初の妻シエ・ジンラン(謝景蘭)との別れを経て、ザオはパリを離れた。その後しばらくは香港に滞在し、二番目の妻となる女優のメイと出会う(メイは1972年に他界)。ザオはメイと、メイの娘であるシン=メイを連れてパリに戻り、ジャコメッティのアトリエにほど近い場所に住居を構えた。

かつてザオは、クリスティーズにこう語っている。「アーティストとしての私の修行にパリの影響があることは否定できないが、同時に私は次第に中国を再発見したとも言っておきたい。逆説的だが、私が自分の最も深いところにある原点に戻ることができたのは、パリのおかげかもしれない」(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月10日に掲載されました。元記事はこちら

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