レンブラントにフェルメール etc. オランダ美術の宝庫、アムステルダム国立美術館で見ておきたい11作品

レンブラントフェルメールなど、人気の高い画家の作品を所蔵することで知られるアムステルダム国立美術館オランダ最大規模のこの美術館で見のがせない名作や貴重な古美術品を、選りすぐって紹介しよう。

アムステルダム国立美術館の外観。Photo: Sjoerd van der Wal/Getty Images

アムステルダムのミュージアム広場を見下ろすように立っているアムステルダム国立美術館を巡るのには、それなりの気合がいる。約8000点の展示品を誇るこの美術館は、全て見て回ると優に5時間はかかるからだ。

アムステルダムでの限られた滞在時間の中、そんなに長居はできないという読者のために、この記事では同美術館で必見の11作品を厳選して紹介する。オランダ黄金時代の絵画を代表する作家の名作を中心に、それ以外の時代や地域の作品もいくつか取り上げた。

リストに登場する作家の圧倒的多数が白人男性だと感じる向きもあるかもしれない。確かに、アムステルダム国立美術館の収蔵品は多様性に欠けていると言わざるを得ない。それでも、古典的なオランダ美術の宝庫である同美術館は、ぜひとも訪れたい場所だ。

1. レンブラント・ファン・レイン《夜警》(1642年)

レンブラント・ファン・レイン《夜警》(1642)、カンバスに油彩、約378 × 451cm Photo: Rijksmuseum, Amsterdam

オランダ黄金時代の画家、レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン(1606-1669)の《夜警》は、間違いなくアムステルダム国立美術館の心臓部と言える。同美術館で最大かつ最も重要な作品であるだけでなく、文字通りコレクション全体がこの作品を軸に構成されているのだ。絵のある場所は「夜警の間」と呼ばれ、いくつもの傑作が並ぶ「名誉の間」の一番奥にある。大勢の人物たちが等身大で描かれたこの巨大な作品は、ドラマチックな光と影の描写で有名だ。また、静的なシーンではなく、生き生きとした動きを描いた革新的な集団肖像画でもある。

2. レンブラント・ファン・レイン《アムステルダム織物商組合の見本調査官たち》(1662年)

レンブラント・ファン・レイン《アムステルダム織物商組合の見本調査官たち》(1662)、カンバスに油彩、約191 × 280cm Photo: Rijksmuseum, Amsterdam

《夜警》の展示室に続く名誉の間にある《アムステルダム織物商組合の見本調査官たち》も印象的な大作で、仕事中と見られる数人の調査官たちが等身大よりもやや大きく描かれている。モデルたちが並んでポーズをとった同時代の典型的な集団肖像画とは違い、この作品の中の人物たちには、鑑賞者の存在に気づいて仕事を中断したような自然な動きが感じられる。

3. レンブラント・ファン・レイン《乱れ髪の自画像》(1628年)

レンブラント・ファン・レイン《乱れ髪の自画像》(1628)、オーク板に油彩、約22 × 19cm Photo: Rijksmuseum, Amsterdam

顔が影に隠れたキアロスクーロ(陰影法)の技法が印象的なこの自画像は、レンブラントがまだ22歳だった時に制作したもの。彼は巧みな心理描写を駆使した自画像を生涯で80点近く描いたとされているが、傑作揃いと言われる一連の自画像の先駆けとなるのがこの作品だ。

4. ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》(1660年頃)

ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》(1660年頃)、カンバスに油彩、約46 × 41cm Photo: Rijksmuseum, Amsterdam

ヨハネス・フェルメール(1632-75)はオランダ黄金時代を代表する偉大な画家の1人だが、生前は今ほど高く評価されていなかった。光や色彩、フォルムに対する厳格なこだわりが注目され、再評価されるようになったのは、その死から約200年が経ってからのことだ。フェルメールの作品には一般家庭の中の情景を描いたものが多いが、《牛乳を注ぐ女》もそうした室内画の1つで、彼の卓越した技術力が凝縮されている。

5. ユディト・レイステル《セレナーデ》(1629年)

ユディト・レイステル《セレナーデ》(1629)、木板に油彩、約45 × 35cm Photo: Rijksmuseum, Amsterdam

アムステルダム国立美術館に作品が展示されている女性作家は、わずか24人しかいない。その1人がユディト・レイステルだが、彼女は250年もの間、この傑作の作者だと認められてこなかった。生前は高く評価されていたものの、死後はほぼ忘れ去られていた彼女の作品は全て、数世紀にわたって有名画家のフランス・ハルスか、やはり画家だった彼女の夫ヤン・ミーンス・モレナールの手によるものだとされてきた。レイステルがようやく正当に評価されるようになったのは19世紀後半になってからのことで、特にこの《セレナーデ》は光の見事な表現で知られている。

6. ヤーコブ・コーネリス・ファン・オーストサネン《自画像》(1533年頃)

ヤーコブ・コーネリス・ファン・オーストサネン《自画像》(1533年頃)、木板に油彩、約38 × 29cm Photo: Rijksmuseum, Amsterdam

オランダの黄金期に先立つ時代にネーデルランドで活躍した画家、ヤーコブ・コーネリス・ファン・オーストサネンは、彼の死から100年後に同地の美術界を席巻することになる美学の形成に大きな役割を果たした。この絵はオランダで制作された最初の自画像の1つだが、こうした自画像の出現は、芸術作品の制作過程における自身の役割についてアーティストたちが自覚的になり始めたことを示している。

7. ルーカス・ファン・ライデン《金の子牛の崇拝》(1530年頃)

ルーカス・ファン・ライデン《金の子牛の崇拝》(1530年頃)、オーク板に油彩、約92 × 127cm(開いた状態) Photo : Rijksmuseum, Amsterdam

この三連画は、聖書を題材にした作品の中で最も有名なものの1つだ。ここでは、イスラエルの民が金の子牛の像を崇拝し、神の怒りを買う物語が描かれている。ルネサンス後期、中世から近代への移行期に制作されたこの作品は、細部へのこだわりが顕著で、物語の流れがスムーズに描かれていることが評価されている。

8. フランシスコ・デ・ゴヤ《ドン・ラモン・サトゥエの肖像》(1823年)

フランシスコ・デ・ゴヤ《ドン・ラモン・サトゥエの肖像》(1823)、カンバスに油彩、約104 × 81cm Photo: Rijksmuseum, Amsterdam

ゴヤの《ドン・ラモン・サトゥエの肖像》は一見ごく普通の肖像画のようだが、実は複雑な背景がある。この作品が描かれたのは、スペインが一時的にフランスに占領されたのちに独立を勝ち取った半島戦争の直後のことだった。X線調査の結果、この絵はスペイン人ではなくフランス人の役人をモデルにしたと思われる絵の上に重ねて描かれたことが判明した。ゴヤはスペインが復権した後、フランスへの親近感を隠すために元の肖像画の上にこの絵を描いたのではないかと専門家たちは推論している。

9. カレル・アペル《Square Man》(1951年)

カレル・アペル《Square Man》(1951)、リネンに油彩、約120 × 118cm Photo : Copyright © 2023 Karel Appel Foundation / Artists Rights Society (ARS), New York. Photo: Pictoright Amsterdam, Copyright © 2023 Carola van Wijk. Courtesy of the Rijksmuseum, Amsterdam.

アムステルダム国立美術館の近代アートコレクションは規模が小さいが、その中でカレル・アペルの《Square Man》は際立った存在感を放っている。表現は大胆で、カラフルではあるものの、遊び心のある作品とは言い難い。目を見開いて凝視する様子や、指を大きく開いた手、むき出しの性器は、この絵が自己主張をテーマとしていることを伝えている。

10. シヴァ・ナタラージャ(1100-1200年頃)

シヴァ・ナタラージャ(1100-1200年頃)、ブロンズ、約153 × 114cm Photo: Rijksmuseum, Amsterdam

アムステルダム国立美術館は、小規模ながらも印象的なアジア美術のコレクションを所蔵しているが、その1つに1000年近く前に作られたこの像がある。ヒンドゥー教の神、ナタラージャ(舞踏家の王、世界の創造者であり破壊者)を表現した高さ1.5メートルを超えるこの像は、展示室の中央で威容を放っている。

11. 観音像(1100-1200年頃)

観音像(1100-1200年頃) 柳材、金箔、染料、117 × 110 × 74cm Photo : Rijksmuseum, Amsterdam

アムステルダム国立美術館の一番下の階で、目立たない場所に展示されているこの像は、衆生を苦悩から救済する仏教の観音菩薩を表したものだ。この観音は、目には見えるが手に取ることのできないもののたとえである水面の月を見て瞑想しているのだという。観音菩薩は、もともとはインドで信仰されていたアヴァローキテーシュヴァラが東アジアに伝わり、唐時代の中国で女性化したとされている。(翻訳:野澤朋代)

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