医師から画家へ。土を介して遠い故郷と対話する、アイスラン・パンカラルの万華鏡的世界【New Talent 2025】

US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、アメリカの新進作家を紹介する人気企画。2025年版で選ばれた20人のアーティストから、自らのルーツであるブラジル先住民の環境や文化に対する誇りを込め、独自の絵画を制作するアイスラン・パンカラルを紹介する。

アイスラン・パンカラル《A Redescoberta》(2024) Photo Estúdio Em Obra, São Paulo
アイスラン・パンカラル《A Redescoberta》(2024) Photo Estúdio Em Obra, São Paulo

サンパウロのビルの2階にあるアイスラン・パンカラルのスタジオには、街の喧騒と階下の自動車修理工場から漂ってくる排気ガスが充満している。その中に、彼の故郷であるブラジル北東部の内陸地域を思い起こさせる物があれこれ置かれている。父親から送られた大きな革が天井から吊るされ、その近くには乾燥させたクロアの茎の束がある。壁に立てかけられた大型の抽象画のうねるような線は、網の目のように張り巡らされた植物の根を思わせる。また、ドットやプラス記号が描かれた作品は、核心から放射されるエネルギーの磁場のように見える。スタジオを訪れてパンカラルと話したとき、彼はそれを「細胞の宇宙」と呼んでいると教えてくれた。

2021年にサンパウロに移住して以来、パンカラルは医学を学んだ経験と、ブラジル内陸部の動植物の知識、そして先住民族であるパンカラル族に伝わる儀式用の絵に着想を得た作品の制作を通して、遠い故郷との対話を続けている。彼がパンカラルを姓として名乗るようになったのは、「先祖代々のかけがえのない遺産」を誇りに思うからだという。

ブラジリアで医師免許を取得したパンカラルが、幼い頃から好きだった絵を描くことを再開したのは、研修医として働いていた2019年のことだった。コロナ禍が発生する数週間前、勤務先のブラジリア大学病院でドローイングの展覧会を開いた彼は、2021年末までにさらに10の展覧会に出展し、その後もブラジリアの国立共和国美術館やサンパウロ美術館での展覧会に参加している。そして2024年、ブラジルの若き才能を称える権威ある現代美術賞、PIPA賞を手にした。

パンカラルの抑制された色使いから連想するのは、ブラジル北東部のカーチンガと呼ばれる半乾燥地帯で、その豊かな筆致がセピア色の砂地に生育する乾燥した茂みやトゲのある低木を思わせる。こうした自然環境はパンカラル族の文化に影響し、人々の暮らしに植物の季節的なサイクルが深く関わっている。それについて彼は、「カーチンガなくしてパンカラル族の暦は存在しません」と説明する。

Aislan Pankararu: Direction of Healing, 2024.
Courtesy Aislan Pankararu
Aislan Pankararu: Direction of Healing, 2024. Courtesy Aislan Pankararu

「Soil(土)」シリーズ(2024)の作品では、土をアクリル絵の具に混ぜて使い、ミクロとマクロの視点の境界を曖昧にしながら、細胞膜や波、樹木の年輪、地形図を思わせるフォルムを描いている。また、「Touch(触感)」シリーズ(2024)の白と黒のドットは、落ち葉色に塗られたカンバスの上で振動しているようだ。その一方で、《A Redescoberta(再発見)》(2024)のように、鮮やかなピンクや紫、緑などのエネルギッシュな色彩が画面に炸裂する作品もある。

パンカラルが土を用いて描く技法は、儀礼的な舞踊「トレ」の演者の身体を象徴的な図柄で覆うことに通じるものがある。ダンサーの肌に絵を描くように描くことで、パンカラルはカンバス上で動きの感覚を呼び起こし、作品を神聖な儀式と同調させている。しかし表現は直接的ではなく、あくまでも示唆的であり、パンカラル族の伝統の重要な要素である秘密の感覚とでも言うべきものが保たれている。パンカラルはそれをこう表現した。

「沈黙という名の神秘がそこにはあります。私はそれと手に手をとって歩んでいくのです」

(翻訳:清水玲奈)

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