トランプ大統領、「反アメリカ的」な展示の撤去をスミソニアン博物館に命令。多様性は「有害で圧政的」

アメリカトランプ大統領は、スミソニアン博物館から反米的なイデオロギーに基づく展示を排除するよう命じる大統領令に署名。2020年以降、公共の場から撤去された記念碑や銅像などを復活させることも指示されている。

ワシントンD.C.にあるスミソニアン・アメリカ美術館のエントランス(2012年撮影)。Photo: Courtesy Wikimedia Commons

3月27日、ドナルド・トランプ大統領は、21の博物館・美術館、14の研究・教育施設および国立動物園を運営するスミソニアン協会に対し、「分断を招く」「反アメリカ的」な内容を展示から排除するよう命じる大統領令に署名した。この大統領令には、人種差別への抗議運動が広がりを見せた2020年以降に公共の場から撤去された「記念碑、記念像、記念建造物や説明版」を、元の状態に戻すことも盛り込まれている。

1846年に合衆国議会によって創設されて以来、官民連携で運営されてきたスミソニアン博物館は、国の歴史を語る上での自主性を保ってきた。また、過去10年間で多様性に特化した部門が新設され、国立アメリカラテン系博物館や女性歴史博物館の設立計画などの拡充が図られている。

「アメリカ史に真実と正気を取り戻す」と謳う大統領令の実施責任者には、J・D・バンス副大統領が任命された。どのような内容が「不適切」であるかを決定する権限が副大統領に与えられることになるが、ホワイトハウスから出されたファクトシートには、大統領令は「反米イデオロギー」に対抗するものだし、こう説明されている。

「過去10年間、客観的な事実をイデオロギーに基づく歪曲された物語に置き換え、わが国の歴史を書き換えようとする行為が広がるのを、アメリカ人は目の当たりにしてきた。この修正主義的な動きは、建国の理念や歴史的な出来事を否定的に捉えることでアメリカの偉大な業績を損なおうとするものだ」

また、アメリカの歴史をより幅広い視点から捉えようとするスミソニアン博物館群の取り組みは、「本質的に人種差別的、性差別的、抑圧的で、そのほかにも救いようのない欠陥がある」と断じ、「有害かつ圧制的」だと記述されている。それに加え、計画中の女性歴史博物館でトランスジェンダーの女性を取り上げることも槍玉にあげられた。同館のオープンは10年先になる見込みで、現在はオンラインでのみ展示が行われている。

大統領令ではさらに、国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館を批判。「勤勉さ」や「個人主義」「核家族」が「白人の文化」だとした同館の説明を問題視している。ワシントン・ポスト紙の報道によると、同館が「人種について語る」と題されたポータルサイトに掲載した2020年のインフォグラフィックにこうした表現があったという。しかし、保守派の政治家たちからの反発を受け、このインフォグラフィックは削除されている。

大統領令では、2020年以降に撤去された歴史的な記念碑や銅像の復活も指示された。同年、ブラック・ライブズ・マター運動をきっかけに反黒人的差別主義に対する抗議が世界的に広まり、大西洋横断奴隷貿易や植民地拡大におけるアメリカの役割を見直す契機になった。その中で、歴史上の人物を讃える数多くの銅像が公共の場から撤去されたり、異なる文脈に位置付けられるようになったりしている。

責任者となったバンス副大統領は、トランプ政権の高官や議会、行政管理予算局と協力して「この大統領令の政策を実現する」ことになる。スミソニアン協会は、9人の市民、6人の連邦議会議員、ジョン・G・ロバーツ・ジュニア最高裁長官とバンス副大統領で構成される理事会によって監督されるが、副大統領が資金差し止め以外にどのような方法でイデオロギー的修正を強制できるかは不透明だ。スミソニアン協会のウェブサイトによると、連邦政府からの資金援助が予算全体の約6割を占める。

トランプ政権は基本的な姿勢として、アメリカの史跡は「我われの並外れた遺産、より完全な連邦になるための一貫した進歩、自由と繁栄、人類の発展を前進させた比類なき記録」を中心に伝えるべきだとしている。(翻訳:石井佳子)

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