抗議デモ渦中のロサンゼルスでバーバラ・クルーガーの屋外作品が「デモを象徴」。現代美術館は閉館

6月6日、アメリカロサンゼルスで始まった移民政策への抗議デモと政府の対立が激化しているなか、ロサンゼルス現代美術館(MOCA)の駐車場壁面に常設展示されているバーバラ・クルーガー作品に再び注目が集まっている。

Barbara Kruger's Untitled (Questions), 1990/2018
ロサンゼルス現代美術館(MOCA)の駐車場の壁に常設展示されているバーバラ・クルーガーの作品《無題(質問)》(1990/2018)と、州兵たち。Photo: David McNew/Getty Images

6月6日、アメリカロサンゼルスで始まった移民政策への抗議デモと政府の衝突が激しさを増している。それを受けて、ロサンゼルス現代美術館(MOCA)は12日、8日から続いていたゲフィン・コンテンポラリー館の閉鎖を15日まで延長すると発表した。同館ではオラファー・エリアソンの展覧会「Olafur Eliasson: OPEN」が開催中だった。

抗議デモは6日、連邦政府の移民税関捜査局(ICE)がロサンゼルスの複数箇所で強制捜査に入り、100人以上を拘束したことがきっかけで起こった。7日、トランプ大統領は抗議デモを鎮圧するため州兵の派遣を命じたが、ギャビン・ニューサム知事はこれを「違法」として大統領を相手に訴訟を起こした。カレン・バス市長によると、10日から施行されている夜間外出禁止令に違反したとして200人以上が拘束されており、12日時点で拘束されたデモ参加者は約400人に上る。今後トランプ大統領は、ロサンゼルスにデモ鎮圧の訓練を受けた海兵隊の部隊を早ければ12日夕方(日本時間では13日)に派遣する見通しであり、さらなる事態悪化が予想されている。

デモの中心地であるダウンタウン地区にあるロサンゼルス現代美術館(MOCA)は12日、美術館のグランドアベニュー館の開館は続けるものの、ゲフィン・コンテンポラリー館の閉館延長と、毎週木曜日の夜間開館中止をインスタグラムで発表。投稿ではその理由について、「ロサンゼルス市内の情勢の変化と、ゲフィン・コンテンポラリーがロサンゼルス連邦拘置所付近で続いている抗議デモや軍事行動に近接していることを考慮し、スタッフと来館者の安全と福祉を最優先しました」と説明した。

ロサンゼルス現代美術館(MOCA)の外壁に落書きをするデモ参加者。Photo: David McNew/Getty Images

ロサンゼルス現代美術館(MOCA)はデモ参加者に外壁を落書きされるなどの被害を受けているものの、マスコミのコメント要請に応じず静観の姿勢を取っている。

だがMOCAは、期せずして今回の抗議デモで大きな注目を集めている。デモが発生した前日の6月5日から、ロシアのアクティビスト・パンク・ロック集団プッシー・ライオットのメンバーであるナジェジダ・トロコンニコワが、ゲフィン・コンテンポラリーで《POLICE STATE》というパフォーマンスを行っていたのだ。このパフォーマンスは権力システム下での支配、監視、疎外感の普遍的なメカニズムを探求するもので、トロコンニコワは会場の一部を監房のような空間に変え、そこにロシアやベラルーシ、アメリカの政治犯から送られたアート作品を展示。そして彼女は会場に外でのデモ活動のライブ音声と自身の心拍音を混ぜた音を流した。

トロコンニコワのパフォーマンスは14日まで続く予定だったが、急遽延期が決まった。トロコンニコワは、延期を発表したMOCAのインスタグラム投稿にコメントする形で、人々に「この土曜日に街頭で会いましょう」「移民がアメリカを偉大にする」というメッセージを送った。

もうひとつは美術館が委託し、ゲフィン・コンテンポラリーの駐車場の壁に常設展示されているバーバラ・クルーガーの1990年の壁画《無題(質問)》だ。赤地に白い顔料で言葉が綴られた巨大な作品は、抗議デモの映像や写真に何度も映り込み、壁画の言葉が「今回のデモを象徴している」とSNSで注目を集めている。ロサンゼルス・タイムズは9日、この作品の言葉を全て掲載した。

「誰が法の外にいるのか? 誰が売り買いされるのか? 誰が自由に選択できるのか? 誰が刑に服すのか? 誰が命令に従うのか? 誰が最も長く敬礼するのか? 誰が最も大きな声で祈るのか? 誰が最初に死ぬのか? 誰が最後に笑うのか?」

ロサンゼルス・タイムズの取材に対して、クルーガーは抗議デモについてメールで次のようにコメントしている。

「この挑発はトランプが望んでいるものを与えている。戒厳令を宣言できる瞬間だ。まるでそれが予定されていなかったかのように宣言されるだろう」(翻訳:編集部)

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