アマンダ&グレン・R・ファーマン(Amanda and Glenn R. Fuhrman)
拠点:アメリカ・ニューヨーク
職業:投資家(Tru Arrow Partners)
収集分野:現代アート
2014年、やはりARTnewsのトップ200コレクターズに名を連ねるジョン・フェランとともに投資会社のMSDキャピタルを共同設立したグレン・ファーマンは、かつてオースティン・クロニクル紙にこう語った。「私と妻のアマンダが惹かれるのは、美的な面で大きな魅力があり、そこに何らかの意味合いが重なっている作品。単に美しい絵であるだけではない何かを持つ作品です」
このコメントは、ファーマン夫妻が所有する最も大きな作品の1つをよく言い表している。それは、高さ3メートルのダイニングセット《Table and Four Chairs》(2003)で、彫刻家の故ロバート・テリアンが制作したものだ。これと同様、ジム・ホッジス、ジム・トーロク、チャールズ・レイ、フアン・ムニョス、マウリツィオ・カテラン、カタリーナ・フリッチュなどの一風変わった作品が、夫妻のコレクション全体の基調となっている。
2014年、テキサス州オースティンの美術館、ザ・コンテンポラリーで、ルイ・グラチョスがキュレーションした夫妻のコレクション展「A Secret Affair: Selections from the Fuhrman Family Collection」が開催された。展覧会のプレスリリースには、「収集への情熱、そしてアート作品とそれを鑑賞する人との親密な関係のメタファーを提示する」ことを意図していると書かれていた。この展覧会は、2008年にファーマン夫妻がニューヨークのチェルシー地区にオープンした、FLAGアート財団の展示スペースにも巡回している。FLAGは、バスケットボール選手のシャキール・オニールのキュレーションによる特別展など、毛色の変わったイベントも実施しているが、通常はサム・ギリアム、ジュヌヴィエーヴ・ガイニャール、カムルーズ・アラムなど、現代アートを代表する作家の展覧会を中心に運営されている。
2018年にファーマン夫妻は、同じトップ200のコレクターであるスザンヌ・ディール・ブースとともに、スザンヌ・ディール・ブース/FLAGアート財団による賞の設立を発表。ザ・コンテンポラリーが運営するスザンヌ・ディール・ブース/FLAGアート財団賞は、賞金20万ドル(約2900万円)と、個展開催およびカタログ制作への資金提供を合わせた総額80万ドル(約1億1600万円)というアート界最大級のものだ。この賞の最初の受賞者は、2018年のニコール・アイゼンマン。なお、同賞はもともとディール・ブースが10万ドル(約1450万円)で2016年に始めたもので、その年の受賞者はロドニー・マクミリアンだった。また、2021年にはグレンが、アート業界のニュースレター、ベア・ファクストに資金を投じ、オークション顧客のデータベースを立ち上げている。
ニューヨークの展示スペース開設10周年を記念して出版された『The Flag Foundation: 2008-2018』には、US版ARTnews編集長サラ・ダグラスによるインタビューが掲載されている。ニューヨーク近代美術館の理事でもあるグレンはその中で、かつてゲルハルト・リヒターから絵画を購入しようとしたとき、リヒターに難色を示されたことを明かしている。100枚からなるそのシリーズ作品は公共の美術館に収蔵されるべきで、駆け出しのコレクターにはふさわしくないとリヒターは考えていたようだ。グレンは、リヒターを扱うディーラー、マリアン・グッドマンに「自分はこの作品にとても惚れ込んでいる。何とかしてほしい」と頼み込んだという。結果的にその願いは叶えられた。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。