トランプ政権による「ニューディール美術のシスティーナ礼拝堂」売却危機に、新たな展開

トランプ政権が売却を計画しているワシントンD.C.の歴史的建築物、ウィルバー・J・コーエン連邦ビルには、ベン・シャーンフィリップ・ガストン、シーモア・フォーゲルらの壁画やレリーフがある。連邦政府による売却計画に反対する動きが広がる中、新たに3人のアーティストが、作品と建物の保護を求める公開書簡を発表した。

シーモア・フォーゲル《国家の富》(1941)。Photo: Corbis via Getty Images

トランプ政権は2025年11月、ベン・シャーンフィリップ・ガストン、シーモア・フォーゲルなどのユダヤ系芸術家らが制作した壁画や彫刻レリーフを収める、ワシントンD.C.のウィルバー・J・コーエン連邦ビルを売却する計画を明らかにした。これに対し、同ビルの保存を求める署名運動が広がる中、アーティストのマーサ・ロスラー、エリス・エングラー、ジョイス・コズロフの3人は1月9日、ニューヨークのユダヤ美術館に作品保護を求める書簡を送付。23日にハイパーアレルジックの記事内で全文公開した。

1940年に完成したウィルバー・J・コーエン連邦ビルは、当初、社会保障局の本部として使用されていた。その後、1954年以降は住宅都市開発省や、連邦政府が出資する国営メディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」などが入居してきた。しかしVOAの放送は、トランプ政権下の2025年10月に停止されている。現在も建物は、米グローバル・メディア庁のオフィスとして使われている。

ニューディール美術のシスティーナ礼拝堂

建物の内外には、シャーン、ガストン、フォーゲルに加え、エセル・マガファンとジェン・マガファン姉妹など、20世紀アメリカを代表する芸術家たちによる壁画やレリーフが残されている。作品には、乳児を抱く母親、失業した労働者、高齢の夫婦、路上で眠る家を失った子どもといった人々の姿が描かれている。彼らは、1935年8月にニューディール政策の一環として成立した社会保障法の恩恵を受けた人々であり、世界恐慌下にあった人々の生活を社会的セーフティネットが支えるという理想を体現している。

こうした背景から、この建物は「ニューディール美術のシスティーナ礼拝堂」とも呼ばれてきた。しかし、多くの作品が建物の壁面や構造体に直接描かれ、あるいは彫り込まれているため、建物の老朽化が指摘される同ビルが売却された際、解体されることになれば作品の保護は極めて困難になる。

ワシントンD.C.のウィルバー・J・コーエン連邦ビルにあるベン・シャーンの壁画。Photo: Wikimedia comons
ワシントンD.C.のウィルバー・J・コーエン連邦ビル入り口のレリーフ。Photo: Wikimedia comons
ウィルバー・J・コーエン連邦ビル。Photo: Wikimedia comons

現在、コーエン連邦ビルの売却に反対する複数の請願が出回っており、「リビング・ニューディール」が主導する署名にはすでに7000人以上が名を連ねている。ロスラー、エングラー、コズロフの3人は、近年シャーンやガストンの大規模展覧会を開催してきたユダヤ美術館こそが、この問題について公的かつ権威ある立場を示し、他の文化機関に行動を促すことができる存在だと考えた。そして3人は1月9日、同館の館長ジェームズ・スナイダーおよび理事長シャリ・アロンソンに宛て、壁画と建物の保存を求める公開書簡を送った。

自らの遺産と歴史について今こそ声を上げるべき

書簡では、トランプ政権がコーエン・ビルの売却を急ぐ中で、「アメリカ合衆国は、特に歴史がより古く、経済的に豊かとは言えない国々と比べても、公的美術を尊重し、保存し、修復するという点で、嘆かわしい実績しか持っていない」と指摘している。そして、「先人である芸術家たちのために、今こそ声を上げるべきだ」と、美術館および広範な芸術界に行動を呼びかけた。この呼びかけにはすでに数百人のアーティストが賛同しており、署名者にはジョーン・セメル、ロシェル・ファインスタイン、ジョーン・スナイダー、ルーシー・リパード、ケイ・ウォーキングスティックといった著名な芸術家や批評家も名を連ねている。

これに対し、ユダヤ美術館のスナイダー館長は、ハイパーアレルジックに寄せた声明の中で次のように述べている。

「ユダヤ美術館は、共有された文化的遺産の一部として、芸術と建築を守ることに深く責任を感じています。この問題が浮上して以来、私たちは注視してきましたし、3人の芸術家から壁画保存の支援を求められた際には全面的に応じました。私たちは芸術界の指導者、芸術家、保存活動家と連帯し、これら歴史的壁画の保護と保存を訴えていきます。安全な保存を確保するためのさらなる方策についても検討を続けていきます」

書簡の作成者である3人は、この取り組みが、歴史の消去に抗うより大きな運動の一部となることを願っている。彼女たちはハイパーアレルジックの取材に対し、次のように語った。

「私たちは毎日、圧倒され、恐怖を覚えるニュースに直面しています。しかし、その中でも芸術家としてできることがあります。それは、自らの遺産と歴史について声を上げ、他の芸術家たちにも参加を呼びかけることです」(翻訳:編集部)

from ARTnews

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