トランプ政権、スミソニアン協会への圧力をさらに強化。展示審査を巡り資金提供停止を警告

アメリカの歴史や文化における多様性の表現をめぐり、トランプ政権がスミソニアン協会への圧力を強化している。展示内容の事前審査をめぐり、運営資金のおよそ6割を占める連邦予算の提供を停止すると警告した。

スミソニアン協会が運営する文化施設の一つ、スミソニアン芸術産業館の外観。Photo: J. David Ake/Getty Images
スミソニアン協会が運営する文化施設の一つ、スミソニアン芸術産業館の外観。Photo: J. David Ake/Getty Images

ドナルド・トランプ大統領は第2次政権発足以降、アメリカの歴史や文化における多様性の表現をめぐり、スミソニアン協会を繰り返し批判してきた。ワシントン・ポスト紙によると、政権は現在、同協会が運営する博物館群の展示内容や資金提供に対し、さらに圧力を強めている

スミソニアン協会長官を務めるロニー・G・バンチ3世は、政府からの独立性を維持しながらも、展示内容の審査に応じる考えを見せてきた。しかし同紙によれば、米行政管理予算局長のラッセル・ヴォートと、米国内政策評議会局長のヴィンス・ヘイリーは、審査に必要な文書や情報の提出が迅速に行われていないと不満を示したという。

ヴォートとヘイリーはバンチに宛てたメールのなかで、トランプ大統領が署名した大統領令を引用し、スミソニアン協会が「有害なイデオロギー」を推進していると批判。大統領令では、スミソニアン協会がアメリカを「本質的に人種差別的、性差別的、抑圧的で、救いようがないほど欠陥がある国」と描いていると指摘し、そうした展示やプログラムは、国民が共有する価値観を損ない、人種に基づく分断を助長するとして、資金提供を禁じる方針が示されている

今年3月に署名された大統領令を機に、スミソニアン協会の美術館・博物館群に展示されている作品や展示内容は政府の審査対象となった。ところが、協会から送られてきた展覧会資料は「求める水準に遠く及ばなかった」とヴォートとヘイリーは主張している。ワシントン・ポスト紙によれば、同協会は展示内容の説明に加え、将来的に開催される展覧会にまつわる資料を来年1月13日までに提出するよう求められているという。

2人はまた、アメリカ建国250周年に合わせて開催される展示について言及しており、「世界史においてアメリカが善をなす最大の勢力の一つであったという事実が、スミソニアン博物館群の上層部に正しく共有されていてほしい」とバンチに宛てている。加えて、「アメリカ史を肯定的に」みない展覧会が開催された場合、国民からは「受け入れられないだろう」とも記している。

このメールに対してバンチは、スミソニアン協会は依然として「情報共有に尽力している」と返信したという。彼はまた、10月に始まった政府閉鎖によって情報収集が遅れたと主張し、同協会は「展示内容の見直しと内部統制の刷新に関する最新情報を対面で共有することを望んでいる」と付け加えた。

改めて強調された協会の独立性

運営資金の約62%を占める連邦政府予算は、スミソニアン協会にとって生命線だ。しかし、政府による資金提供がストップした場合でも、スミソニアン美術館・博物館群は「寄付、事業収入、投資」といった形で資金を得られると同協会のウェブサイトには記されている。

スミソニアン協会は政府から多額の資金を受け取っているものの、厳密には国営ではなく、独立した機関とされている。ワシントン・ポスト紙によると、バンチはこの点を改めて強調し、「すべてのコンテンツ、プログラム、キュレーションに関する決定はスミソニアン協会によって行われている」と政府側に伝えたという。

とはいえ、独立機関としての立場を主張する一方で、政府との摩擦は今年すでに表面化している。トランプ大統領は今年6月、米国立肖像美術館の館長を解雇したと自身が運営するSNS、Truth Socialで発表したが、館長はその直後に辞任している。また7月には、同館で開催予定だったアフリカ系アメリカ人画家、エイミー・シェラルドの個展が中止された。シェラルドはその理由として、黒人のトランスジェンダー女性を描いた作品を展示しないよう同館に求められたことを挙げている。(翻訳:編集部)

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