検閲の境界線はどこに? トランプ大統領がスミソニアンの展示を「名指し」非難、攻勢強める

ホワイトハウスは現地時間8月21日夜、スミソニアン協会の複数の展示や作品を名指しで批判し、トランプ大統領による同協会ネットワークへの攻勢を強めた。大統領は過去にも問題視してきた展覧会以外の作品や巡回展もリストに挙げ、展示内容の精査を弁護士に指示したという。

The Smithsonian Institution. Photo: David Ake/Getty Images
スミソニアン協会。Photo: David Ake/Getty Images

8月21日夜(現地時間)、アメリカ・ホワイトハウスは、スミソニアン協会の博物館・美術館で公開されている複数の作品や展覧会、展示物を名指しで非難し、ドナルド・トランプ大統領による同協会への抗議をさらに強めた。

この抗議は、ホワイトハウスのウェブサイトに公開された「トランプ大統領はスミソニアンについて正しい」と題された記事を通じて表明された。そこに掲載されたリストには、大統領がこれまでにも批判してきた展覧会が含まれており、そのひとつは、スミソニアン・アメリカ美術館で開催された「権力の象徴としての彫刻」に関する展示だ。また、アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館の「白人優位文化」を扱った展示も再び攻撃された。これは、第二期トランプ政権発足直後に出された大統領令で問題視された対象でもあった。

しかし今回のリストには、これまでトランプ大統領が言及したことのない展示も含まれており、中には、スミソニアンでは実際に実現していないものもある。例えば、エイミー・シェラルドが描いた「自由の女神」としてポーズをとる黒人トランス女性の肖像画だ。これは、スミソニアン傘下のナショナル・ポートレート・ギャラリーで予定されていた巡回展の一部に含まれていたが、シェラルドは作品を見せないよう要請されたと主張し、検閲を理由にこの展示を中止している。なお、この絵画はすでにホイットニー美術館版の展覧会では公開されていた。

2025年4月9日から8月10日までホイットニー美術館で開催された、エイミー・シェラルド「Amy Sherald: American Sublime」展の展示風景。左から《A God Blessed Land (Empire of Dirt)》(2022)、《Trans Forming Liberty》(2024)。Photo: Ron Amstutz. Courtesy the Whitney Museum of American Art, New York

具体的な作品名を挙げて「不適切」と断じたケースもある。たとえば、ナショナル・ポートレート・ギャラリー主催の肖像画コンペで最終候補となったリゴベルト・A・ゴンザレスの《Refugees Crossing the Border Wall into South Texas》(2022)だ。ホワイトハウスの公式アカウントは21日、X(旧Twitter)に作品画像を投稿し、「これこそが、トランプ大統領が『スミソニアンは制御不能だ』と述べた意味だ」と書き込んだ。

ナショナル・ポートレート・ギャラリーはまた、アンソニー・ファウチ(元国立アレルギー・感染症研究所所長)を題材にしたストップモーション・アニメーション作品を委嘱したことでも批判を浴びた。ファウチは新型コロナ対策で科学的な慎重姿勢を貫き、経済優先の立場を取ったトランプと度々衝突してきた人物だ。

さらに、松明の代わりにトマトを掲げた紙製の自由の女神像もやり玉に挙げられた。この像は2000年、フロリダ州イモカリーでの労働者権利デモで使用され、現在は国立アメリカ歴史博物館のコレクションに収蔵されている。

リストにはすでに終了した展示も含まれている。たとえば2023年に国立アフリカ美術館で開催された「ドレクシア王国」に焦点を当てた展覧会だ。ほかの項目と同様、ホワイトハウスはこの展示に関する具体的な異議を示さず、スミソニアン公式サイトの引用に頼っていた。

また、国立アメリカ・ラティーノ博物館の展示解説文にも矛先が向けられた。同館がブラック・ライブズ・マター運動や障がいのあるラティーノ/ラティーナ、移民、植民地主義を扱った展示について記した文言を、ホワイトハウスは「被害と搾取の世紀」として歴史を捉えていると断じた。さらに、国立アメリカ歴史博物館の「LGBTQ+の歴史」展示で用いられた用語も問題視している。

今回の声明は、同じ週で2度目のスミソニアン批判となった。数日前、トランプは自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」の投稿にこう書き込んでいる。

スミソニアンで語られていることはすべて、我が国がいかにひどいか、奴隷制がいかに悪かったか、虐げられてきた人々がいかに成果をあげてこなかったかばかりだ──成功も、輝きも、未来も語られていない。我々はこれを許さない。私は弁護士たちに、博物館の展示内容を精査し、大学やカレッジを対象に行い大きな成果を上げた改革と同じプロセスを開始するよう指示した。

トランプは以前からスミソニアンの展示内容の再検討を求めていたが、同館は自ら検証を行うと表明し、政権からの独立を繰り返し強調してきた(トランプ大統領自身はスミソニアン理事会のメンバーではないが、副大統領であるJ.D.バンスは慣例通り理事を務めている)。多くの専門家は、大統領にスミソニアンの展示を変更する法的権限があるのか疑問視している。

トランプはかつて、ナショナル・ポートレート・ギャラリー館長を務めていたキム・サジェットを解任したと主張した。しかしサジェットはその後も職務を続行し、最終的には自ら辞任している。

from ARTnews

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