ベン・シャーンらの名作壁画が消滅の危機──トランプ政権方針で歴史的建築に解体の可能性

トランプ政権がワシントンD.C.にある歴史的建造物4棟の解体を検討していると、元連邦政府職員が進行中の訴訟で主張していることが分かった。4棟の中には、著名作家が手がけた壁画の数々を飾る建物が含まれている。

フィリップ・ガストン《Reconstruction and Well-Being of the Family》(1942) Photo: Charles Swaney/Living New Deal

12月9日付のブルームバーグ・ロー(*1)は、トランプ政権がアメリカの歴史的な重要建築である連邦政府ビルの解体を検討しているとする元連邦政府職員の補足宣誓書の内容を報じた。それによると、住宅都市開発省や連邦政府が出資するニュースメディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」がかつて入居していたウィルバー・J・コーエン連邦ビルなど、4棟が対象となっている。

*1 法律関連情報を配信するブルームバーグ社傘下のウェブサービス。

元職員のマイデル・ライトが補足宣誓書を提出したのは、ホワイトハウス近隣の連邦政府庁舎を塗装しようとするトランプ大統領の計画を阻止するために保存団体が起こした訴訟でのことだ。ライトによると、政府庁舎の維持管理に関するプロセスに「権限を持つ唯一の機関」である一般調達庁(GSA)を通さずに、政権が建物解体の入札を募集しているという。

「私が知る限り初めて、大統領自らが、国家遺産である建造物に責任を持つ政府機関の頭越しに関与する手段を取ろうとしています。その組織の中にいる誰が彼に『ノー』と言えるでしょうか?」

こう訴えるライトに対し、司法省側の弁護士は「伝聞と憶測に過ぎない」と反論している。

4棟の中でも特に文化保存活動の関係者が懸念しているのは、チャールズ・ゼラー・クラウダーが設計し、1930年代のストリップド・クラシシズム(Stripped Classicism)様式で建てられたコーエンビルの扱いだ。このビルは、当初社会保障局の庁舎として使用されており、内部にはニューディール政策の中核となる法律として1935年に制定された社会保障法を称えるいくつもの壁画がある。

代表的なものは、《The Meaning of Social Security(社会保障の意味)》と題されたベン・シャーンの連作壁画で、3枚のパネルにニューディール以前の社会問題を描き、続く数枚のパネルで理想化されたニューディールのビジョンを描いている。また、フィリップ・ガストンの大型壁画《Reconstruction and Well-Being of the Family(家族の再建と幸福)》や、シーモア・フォーゲルの《Wealth of the Nation(国家の富)》と《The Security of the People(国民の安全)》の2点も、このビルに収められている。

これらの壁画には注目すべき規模と重要性があると強調するのは、歴史家で、リビング・ニューディール(*2)の創設者でもあるグレイ・ブレチンだ。そのブレチンは、コーエンビルを「ニューディールのシスティーナ礼拝堂」と表現する。

*2 ニューディール政策に関する研究プロジェクトやオンラインアーカイブを運営するNPO団体。

コーエンビルはまた、ワシントンD.C.のランドマークとして、国家歴史登録財およびワシントンD.C. 歴史的建造物・史跡一覧の両方に登録されているが、近年は老朽化が進んでいた。それに対しGSAは、バイデン元大統領在任時の2022年に制定されたインフレ抑制法の一環として、2032年までに10億ドル(約1550億円)規模のグリーン改修(*3)を完了させることを提案し、実現可能性の検証を実施していた。(翻訳:石井佳子)

*3 環境負荷を減らし、持続可能性を高めることを目的とした改修。

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