フィッシャー家(Fisher Family)
拠点:アメリカ・サンフランシスコ)
職業:小売業(GAP)
収集分野:現代アート、写真
アートコレクターのドナルド・フィッシャーとドリス・フィッシャーは、アメリカ最大級の衣料品チェーンを展開するGAP(ギャップ)の創業者だ。2009年に81歳で亡くなったドナルドは当時40歳で、アパレル小売の経験はなかった(それまで小売企業の株を買ってはいたものの、家業の家具製造に従事していた)。小売業を始めたのは、当時ドナルドがリーバイスで自分に合うジーンズを見つけられないでいたという小さなことがきっかけだったという。夫妻の息子、ロバート・フィッシャーは35年以上GAPの経営に携わり、2004年にドナルドの後を継いで取締役会議長に就任した。
ドナルドとドリスはアート収集を始めるにあたって、「2人とも気に入った作品以外は買わない」というシンプルな約束を交わしたという。また、息子のロバートは妻のランディとともに、すばらしい写真作品のコレクションを構築している。その写真コレクションを集めた展覧会が、2010年にサンフランシスコのピア24フォトグラフィーで開催されている。「ランディ&ボブ・フィッシャーのコレクションから」と題されたこの展覧会には、ウィリアム・エグルストン、ダイアン・アーバス、ウォーカー・エヴァンス、マン・レイをはじめ、高い評価を得ている数多くのアーティストの作品が展示された。
ロバートはサンフランシスコのラジオ局KQEDに、こう語っている。「1981年から一貫して写真を集めています。初めて買ったとき、20世紀の偉大なアーティストの1人だと誰もが認めるアーティストの作品を1200ドル(約17万円)で手に入れられるということを知って、すっかりはまってしまったのです」。ここで彼が話している偉大なアーティストとは、写真家のウォーカー・エヴァンスのことだ。
ロバートは、両親のコレクションが100年間の約束で貸し出されているサンフランシスコ近代美術館の理事会長も務めている。2016年に同美術館がリニューアルオープンした際のコレクション展には、1100点に及ぶフィッシャー夫妻のコレクションの約3分の1が含まれていた。これについては、サンフランシスコ・クロニクル紙の元評論家、チャールズ・デスマレイなどが、コレクションの長期貸与の取り決めについて十分な透明性が確保されていないとして批判している。
ドナルドとドリスは、厳選された一流アーティストの作品を掘り下げるように収集している。そのコレクションには、エルズワース・ケリー、アンディ・ウォーホル、アンゼルム・キーファー、ゲルハルト・リヒター、カール・アンドレ、フランク・ステラ、チャック・クローズ、フィリップ・ガストン(中・後期)、ブルース・ナウマン(ネオン作品)、ブライス・マーデン、アレクサンダー・カルダー、アンドレアス・グルスキー、ダン・フレイヴィン、ジグマー・ポルケ、アグネス・マーティンなどが含まれている。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。