エドモンド・チェン(Edmund Cheng)
拠点:シンガポール
職業:不動産投資、デベロッパー
収集分野:現代アート
1990年代初頭からシンガポールの現代アートシーンを支えてきたのは、香港出身の不動産デベロッパー、エドモンド・チェンだ。投資持株会社ウィング・タイ・ホールディングスの副会長兼副社長であるチェンは、あまり知られた存在ではなかったが、2005年から13年までシンガポールのナショナル・アーツ・カウンシル会長を務め、2006年には「信念」をテーマにした第1回シンガポール・ビエンナーレを開催。現代アートのギャラリーを集めた文化エリア、ギルマン・バラックスの創設を指揮し、2018年にはシンガポール美術館の会長に就任している。
アメリカのカーネギーメロン大学で建築を学んだチェンは、シンガポールの公共事業や住宅施策にも情熱を注いでいる。ポール・ルドルフのデザインに感銘を受けたチェンは、20世紀のアメリカで最も影響力のある建築家の1人である彼に設計を依頼し、香港のリッポー・センター、シンガポールのコロネード、ジャカルタのウィスマ・ダーマラ・タワーなど、バウハウスの影響を感じさせる印象的な建築をアジアにもたらした。
1991年にシンガポールの不動産開発業協会会長となったチェンは、シンガポールのデベロッパーに、収益の何パーセントかをパブリックアートのプロジェクトに充てるよう働きかけた。この構想は簡単には進まなかったが、いくつか実現したものがある。たとえば、シンガポール最大のショッピングモール、ビボシティでは、チェ・ジョンファ(崔正化)の巨大作品《Flower Tree》(2003)や、ドイツのアーティスト集団インゲス・イデーが制作した高さ13メートルもの《Snowman》(2006)など、7つのパブリックアートを見ることができる。
チェンはアートアジアパシフィク誌にこう語っている。「私にとってアートは日常生活の一部です。それが何かを学ぶきっかけになったり、感情を揺さぶったり、あるいは遠い記憶を呼び起こすことができれば、アートはその目的を果たしたと言えるでしょう」。個人的なコレクションの内容について語ることのない彼だが、情報筋によるとアジアや世界で活躍する現代アーティストの作品を相当数所有しているという。