グラジナ・クルチク(Grażyna Kulczyk)

拠点:スイス・エンガディン
職業:起業家、フィランソロピスト(スーシュ美術館)
収集分野:現代アート(女性アーティスト、コンセプチュアル・アート、パフォーマンス・アートが中心)、戦後美術

ポーランド出身の起業家・投資家であるグラジナ・クルチクは、まだ法学部の学生だった頃にアート収集を始めた。初めに購入したのは、共産党政権下で作られたポスターや、ポーランドの19世紀の美術品だったという。共産主義政権の崩壊後、クルチクは自動車、通信、エネルギー分野で成功を収め、ポーランドの現代アートを支援するようになった。2003年には、故郷であるポーランド西部の都市ポズナンで、廃墟となった醸造所、スタリー・ブロバーを購入・改装し、商業施設と美術施設をオープン。現在は、数多くのショップやアートギャラリーが並んでいる。

当初はポーランドのアーティストに集中していた彼女のコレクションだが、現在では国際的なアーティストへと幅を広げ、ジュディ・シカゴ、ドナルド・ジャッド、エヴァ・ヘス、ジェニー・ホルツァー、キャロル・ラマ、アリーナ・シャポシュニコフ、ローズマリー・トロッケルなどの作品を所有している。

2018年には、ダボスやサンモリッツに近いスイスアルプス東部の街スーシュで、現代美術館と研究機関を開設する計画を発表。翌年には、スイスのエンガディン渓谷にスーシュ美術館がオープンした。このプロジェクトにクルチクは何年も費やしている。当初はポーランドの2つの都市に美術館建設を提案したというが、結果的にはサンモリッツ北東部の12世紀に建てられた修道院を利用することになった。スイスの建築家、チェスパー・シュミドリンとルーカス・フェルミーが指揮を執った改築では、展示室を作るのに9000トンもの山の岩を削る必要があった。2019年にクルチクは、アートネットニュースにこう語っている。「人里離れた美しい山の中で静かに作品を鑑賞する『スローアート』の場所を作るために、岩を削るというちょっと騒々しい工事が必要になってしまいました」