レン・ブラバトニク(Len Blavatnik)
拠点:イギリス・ロンドン、アメリカ・ニューヨーク
職業:投資家(メディア、製造業、不動産)
収集分野:近現代アート
ウクライナ生まれのレン・ブラバトニクは、ソ連崩壊時に民営化されつつあったアルミニウムやエネルギー企業への投資で財を成した。米フォーブス誌によると、2013年にロシアの石油会社TNK-BPの株式を70億ドル(約1兆円)で売却し、さらに資産を増やしている。近年における最大の投資は、2011年にワーナー・ミュージックを33億ドル(約4800億円)で買収したことだろう。「今の価値はその倍」という業界アナリストの見方を米ブルームバーグ通信が2019年4月に伝えているが、ワーナーの広報担当者は、あくまで評価額は33億ドルだとしている。
ブルームバーグによると、他の大口投資先にはスポティファイ、フェイスブック、アマゾン、ファッションブランドのトリー バーチ、ブロードウェイのヒットミュージカル『ハミルトン』などがある。こうした投資のほとんどは採算が取れているというが、2007年にブラバトニクが手がけた大手化学会社2社の合併はうまくいかず、2009年に企業破産して大きな損失を出した。しかし、やはりトップ200コレクターのレオン・ブラックが経営する投資ファンド、アポロ・グローバル・マネジメントの支援を受けて立ち直り、最終的には15億ドル(約2200億円)相当の株式を手にしている。
不動産投資では、ロンドンのケンジントン・ガーデンズに4100万ポンド(約67億円)の豪邸を購入したほか、フランスのコートダジュールやニースからほど近い岬にあるグラン=オテル・デュ・カップ=フェラを買収するなど活発だ。また、マイアミのファエナ地区の開発にも12億ドル(約1700億円)の出資を行っている。2016年秋に完成したこの地区には、アルゼンチン人起業家のアラン・ファエナが建設したホテル、コンドミニアム、商業施設、文化センターが並ぶ。
2014年にニューヨーカー誌に掲載されたブラバトニクのプロフィールには、イギリスの出版社創業者、ジョージ・ワイデンフェルド卿がコメントを寄せている。それによると、「彼は最近、非常に質の高い現代アート作品や、私が見た中で最高のモディリアーニを収集している」という。同年にブラバトニクは、カンヌ映画祭のチャリティオークションで、ダミアン・ハースト作の金色のマンモスの骨格を落札した。
2016年にはロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館に寄付を行い(金額は非公開)、増築部分のエントランスホールが彼のために改名された。テート・モダンに新たに設けられたスイッチ・ハウスにも5000万ポンド(約82億円)を寄付し、ブラバトニク・ビルと改名されている。さらに、2020年にロンドンのコートールド美術研究所に1000万ポンド(約16億4000万円)を寄付。翌年には、イギリスのフレンズ・オブ・ザ・ナショナル・ライブラリーが、2010万ポンド(約33億円)の貴重な写本コレクションを購入する資金の半分を負担している。
近年ブラバトニクの資産は増加傾向にある。2021年には英サンデー・タイムズ紙の英国長者番付でトップに立ち、推定資産額は230億ポンド(約3兆7000億円)に達した。しかし、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻すると、ウクライナ生まれ、モスクワ育ちの彼は厳しい目を向けられるようになった。
ブラバトニクは、ウラジーミル・プーチンをはじめロシアの政治家とのつながりはなく、オリガルヒでもないと繰り返し主張している。しかし、ブルームバーグは、ブラバトニクが「いわゆるアルミニウム戦争とシベリアの油田から巨額の富を得た」とする詳細なリポートで、彼の言い分に疑問を呈している。また、ブラバトニクとロシアのオリガルヒ、ヴィクトル・ヴェクセリベルクとの関係を指摘する声もある。これに対しブラバトニクは、ヴェクセリベルクとは同じ企業の少数株主同士という間接的な関係に過ぎないとしている。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。