ボティン・ファミリー(Botín Family)

拠点:スペイン・サンタンデール
職業:銀行家
収集分野:現代アート

スペイン最大の商業銀行グループ、バンコ・サンタンデールを欧州に展開して富を築いたボティン家は、銀行家として、そしてコレクターとしての名声をほしいままにしている。1857年に設立された銀行は代々一族が経営を行い、1986年から2014年に亡くなるまでサンタンデール・グループの執行役会長だったエミリオ・ボティンが、近年の事業展開の基礎を築いた。彼の死後は6人いる子供の長女、アナ・パトリシアが後を継ぎ、2010年から同行の英国部門のCEOを務めている。英ガーディアン紙によると、彼女はイギリスにある大手銀行で初の女性役員だという。

ボティン財団は、1993年からアートフィランソロピーの一環として美術品の収集を開始。2017年には、スペイン北部のサンタンデールにレンゾ・ピアノ設計による約3100平方メートルの私設美術館、ボティン・センター(Centro Botín)をオープンした。25年の間に蓄積されたコレクションには、ジョーン・ジョナス、カルロス・ガライコア、モナ・ハトゥム、ヤニス・クネリス、ガブリエル・オロスコ、ミロスワフ・バウカといった世界的な現代アーティストによる絵画、彫刻、ドローイング、ビデオ、写真などがある。同センターのウェブサイトに記されたミッションには、「制作された時代も場所も違う本コレクションの作品は、その概念や変遷をモザイク画のように網羅し、現代におけるアートの証となるものです」と書かれている。さらに、カールステン・フラーやジュリー・メレツなどの大作もあるが、所蔵品だけではなく、サンタンデール湾の壮大な眺望も楽しめる美術館になっている。

美術館がオープンしたのと同じ年、エミリオの弟でアナ・パトリシアの叔父にあたるハイメ・ボティンが提訴されたことが明らかになった。スペイン政府が2015年5月に文化財認定し、輸出が禁止されていた2740万ドル(約40億円)相当のピカソ作品の密輸容疑だ。当局がフランスのコルシカ島沖に停泊していたヨットから発見したのは、ピカソの肖像画《Head of a Young Woman》(1906)で、ハイメは2017年に美術品不正売買で起訴された。2020年に9170万ユーロ(約131億円)の罰金と3年の刑期を言い渡されたが、「不治の病」のため収監を免れた。その後ハイメは、輸出禁止のこの作品を、マドリードのソフィア王妃芸術センターで展示することを「決定」している。

2022年には、ハイメの姪にあたるパロマ・ボティンが、スペインが略奪したとされる古代イベリア彫刻の獅子像に関する捜査を受けたが、裁判所の判断は彼女が「善意」で作品を購入したとするものだった。


注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。