芸術家で探検家のザリア・フォーマンがヴァシュロン・コンスタンタンの「One of Not Many」キャンペーンに登場。「美の創造と地球環境の保全を目指す」

世界最古の時計マニュファクチュール、ヴァシュロン・コンスタンタン。メゾンの哲学を体現する「One of Not Many(少数精鋭の一員)」キャンペーンの新しい顔に、繊細なパステル画で圧倒的な自然を再現するアーティストで探検家のザリア・フォーマンが就任した。

オートオルロジュリー(Haute Horlogerie=高級時計の製作技術)に精通する時計愛好家たちを虜にしてやまない、世界最古の時計マニュファクチュールのヴァシュロン・コンスタンタン。1755年の創業時から受け継がれる、世界屈指の職人たちの卓越した時計製造技術を結集して生み出される希少性の高いタイムピースは、もはや美術工芸品だ。

「少数精鋭の一員」の意を込めて2018年からはじまった「One of Not Many」キャンペーンは、そんなヴァシュロン・コンスタンタンの265年を超える歴史と哲学を体現するもの。その「顔」を務めるのは、シェイプ・クリエーターのオラ・イト、音楽家のベンジャミン・クレメンタイン、写真家で探検家のコーリー・リチャーズ、オートクチュールデザイナーのイーキン・インなど、それぞれの分野で非凡な才能を発揮し、活躍するアーティストたちだ。

芸術家であり冒険家のザリア・フォーマンは、1982年、アメリカ・マサチューセッツ州生まれ。現在はニューヨークを拠点に活動する。写真は今回の広告クリエイティブの撮影がおこなわれたアイスランドにて。

今回、「One of Not Many」キャンペーンの新しい顔としてヴァシュロン・コンスタンタンが白羽の矢を立てたのは、芸術家であり探検家として気候変動を目の当たりにしてきたザリア・フォーマン。旅、そしてメゾンの発展を率いたフランソワ・コンスタンタンから受け継がれた世界へ開かれた精神を表現した「オーヴァーシーズ」を体現するアーティストとして、「One of Not Many」に加わった。

CEOのルイ・フェルラは、フォーマン起用の意義をこう語る。

「創業以来、卓越性の追求と冒険心、情熱と革新、エレガンスと伝統、芸術と文化がメゾンの精神を特徴づけてきました。ザリア・フォーマンが持つ先見性、鋭い感性、そして極めて高い物事の基準は、彼女の芸術的アプローチやその表現領域に反映されています。社会的な活動に情熱を注ぎ、芸術が与える感動を強く意識し、美を多くの人々と共有することを熱望する彼女と私たちの哲学には、通じるところがあります」

ニューヨークのスタジオでの制作風景。「自然破壊の跡ではなく、失うことになるものの美しさを表現したい」とフォーマン。

臨場感のある地球の絵画が呼びかける気候危機

何万年もの時間をかけて地球がつくり上げた神秘的な彫刻、氷河──フォーマンは15年以上にわたり、カメラを手に地球を旅してきた。そして、そこで見たもの、経験したことを写真や動画に残した記録をもとに、人の背丈をゆうに超える巨大なキャンパスに指先や手のひらで柔らかいパステルの顔料をなじませ、粉雪の舞う氷河の複雑なディテールや、水面に映る氷の青みを帯びた反射光、泡立つ波などを繊細に表現しながら、圧倒的な自然の造形美をキャンバスの上に再現させてきた。その今にも音を立てて動き出しそうな写実画は息を飲むほどに美しく、威厳と儚さが共存している。アートには、人々の感情に訴えかける特別な力がある──そう信じてやまないフォーマンは、こう訴えかける。

「私は気候変動による破壊の跡ではなく、失うことになるものの美しさを作品で表現しています。ですから私は芸術家として、普段は訪れる機会のないような隔絶の地を体感できる大規模な作品を制作することで、見る人を包み込み、その場その瞬間にいるような臨場感を感じてもらいたい。人は何かに惚れこむと、それを守りたくなります。それがひいては、人々を鼓舞するものになれば」

フォーマンはこれまで世界の様々な辺境を訪れ、そこで体験した自然の美しさや儚さ、あるいは畏怖を作品に描き出してきた。

体験を通じて自然の美しさや恐ろしさを自らのからだに記憶し、それを制作という運動を通じて芸術作品へと昇華する──芸術家であると同時に探検家としても活動してきたフォーマンは、バンクシーのディズマランドプロジェクトや、ドキュメンタリー番組「ナショナル ジオグラフィック エクスプローラー」にアーティスト・イン・レジデンスとして参加してきたほか、2016年からは、南極大陸やグリーンランド、カナダの北極圏の上空で行う、NASAの科学的な特別飛行調査「オペレーション・アイスブリッジ」などにも同行している。「感情を掻き立てるような細部へのこだわりと美しさへの配慮、そして自然界への敬意は、私がヴァシュロン・コンスタンタンを賞讃する理由のひとつです」と話すフォーマンは、もう一つ、両者をつなげる重要なキーワードに「時間」を挙げる。

「氷河が大きくなるための莫大な時間、氷山の端から差しはじめる太陽の光を感じる瞬間、それを写真に収めるための一瞬、パステル画を完成させるために費やす月日、氷が解けるまでの時間、気候変動の最悪な影響を軽減するために私たちに残された時間──。残された氷河の中に生き続ける歴史のプリズムを通して、私の作品を見る人たちに未来について考えてもらいたいのです。ヴァシュロン・コンスタンタンが時計製造における貴重な文化遺産を守り、そして革新をもたらしているように、私も美しいものを守るための一助を担いたいと願っています。私たちはともに、創造と保全を行っているのです」

今回のキャンペーンに合わせて制作された《Fellsfjara, Iceland  no.3》。フォーマンは、氷河の氷が黒い砂浜で波に洗われる姿に、「過去と未来」を見出した。

人の心を揺さぶる、時を刻む芸術

ヴァシュロン・コンスタンタンとさまざまな価値観を共有するフォーマンは今回のキャンペーンに合わせ、アイスランドのフェルスフェアラを舞台に《Fellsfjara, Iceland  no.3》を制作した。フェルスフェアラの黒い砂浜には、氷河湖から流れ出た氷山のかけらが流れつく。氷に自然光が反射してきらめくその姿から、フェルスフェアラは「ダイアモンド・ビーチ」とも呼ばれている神聖な場所だ。その氷を熟知した上で制作されたフォーマンの新作は、今後世界各地のヴァシュロン・コンスタンタンの旗艦店で順次展示されるという。今作に込めた思いを、フォーマンはこう表現する。

「気候変動の影響を目で見て肌で感じる中で、私は畏敬の念を抱かずにはいられません。大きな塊が氷河から分離し、圧縮された氷河の氷がフェルスフェアラの黒い砂浜で波に洗われているその姿は、過去と未来を物語っているのです。白波が海岸線に打ち寄せ、氷を通して見ると、白く泡立つ海が氷で歪み、それはまるで光のダンスのよう。凍った層の間を光が動き、その周りには、氷が最初に形成された際に閉じ込められた、おそらく太古の気泡が漂っています。氷河がどのように形成され、変化し、溶け、私たちに影響を及ぼすのか──氷の細部からはそれを理解することができるのです」

ヴァシュロン・コンスタンタンの「オーヴァーシーズ」は、この氷のかけらのように、ともに時を伝え、それぞれの複雑さ、卓越性、美しさを兼ね備えている。フォーマンは、「フェルスフェアラの氷の細部までを探究して生まれたこの新しい作品を通して、その場所を守りたいという思いが育まれると、私は信じています」と願いを込める。

「オーヴァーシーズ」コレクション

1977年に創業222周年を記念して発表された222が原型1996年に第一世代、2004年に第二世代、そして2016年には現在の第三世代が登場。フランソワ・コンスタンタンから受け継いだ旅の精神を象徴する「オーヴァーシーズ」コレクションは、カジュアルエレガンスと実用性をもとに、インターチェンジャブル・システムを備えた付け替え可能なストラップ/ブレスレットを採用。機械式自動巻きムーブメント、長時間のパワーリザーブ、磁場による変調を防ぐ軟鉄製のキャリッジ、さらには5気圧から15気圧の優れた防水機能を搭載したキャリバーは、卓越した信頼性と耐久性を誇る。

https://www.vacheron-constantin.com/jp


Photos: Courtesy Vacheron Constantin Text: Mina Oba Edit: Maya Nago

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