ローラン・アッシャー(Laurent Asscher)

拠点:モナコ
職業:投資家
収集分野:近現代アート

ローラン・アッシャーは長い間、自らのアートコレクションを公にしておらず、現在もその全容は明かされていない。

2019年の第58回ヴェネチア・ビエンナーレでは、トップ200コレクターの1人、フランソワ・ピノーがパラッツォ・グラッシで開催したリュック・タイマンス展など、ビエンナーレそのもの以外にも見どころが多かった。そのとき、アッシャーのコレクションから選りすぐられた作品も、ほとんど告知されることなく、15世紀に建てられたパラッツォ・モリン・デル・クオリドーロでひっそり展示されていた(ここは、モーツァルトがヴェネチアを訪れたときに滞在した場所でもある)。水上タクシーから岸に上がり会場に入った招待客は、アンゼルム・キーファー、クリストファー・ウール、サイ・トゥオンブリーなどの作品に目を奪われていた。

100点ほどのアッシャーの所蔵作品は、ブライス・マーデンやリチャード・セラといったアメリカの現代アーティストを中心に、ルーチョ・フォンタナやルドルフ・スティンゲルなどの作品もある。そのうちの1つは大型の彫刻で、自宅の芝生の庭に設置されている。US版ARTnewsに「私は量より質を重視しています」と語ったアッシャーは、その一例として彼が初めて購入したジャン=ミシェル・バスキアの《Irony of Negro Policeman》(1981)を挙げた。この作品は、2015年にグッゲンハイム・ビルバオで行われた回顧展に貸し出されている。

実はパラッツォ・モリン・デル・クオリドーロはアッシャーの私邸で、2019年のビエンナーレ時には特別に公開された。私設美術館にする予定はないようだが、アッシャーは2024年のビエンナーレでも作品を展示するのを楽しみにしているという。

「数多くの美術館があり、かつ、フランソワ・ピノーのような著名コレクターがヴェネチアで活動することで、この地にはすばらしいエコシステムが生まれています」とアッシャーは言う。「シリコンバレーにテクノロジーがあるように、ヴェネチアにはアートがあるのです」