ビートルズのドラムからケルアックの原稿まで──ポップカルチャーを象徴する350点がオークションへ
リンゴ・スターがアメリカのバラエティ番組で演奏したドラムや、「地球上最高」と評されたギターコレクション、さらにはジャック・ケルアックの小説の原稿など、ポップカルチャーを象徴するメモラビリアがクリスティーズのオークションに登場する。
故ジム・アーセイが収集してきた映画、音楽、スポーツ関連のメモラビリアが、3月に開催されるクリスティーズのオークションに出品される。空調設備事業を率い、NFLチームのインディアナポリス・コルツのオーナーとして知られるアーセイは、ジャック・ケルアックからカート・コバーン、ジャッキー・ロビンソンまで、アメリカのポップカルチャーの歴史を切り取る品々を数多く集めてきた。
今回のオークションに携わる楽器専門家のケリー・キーンは、「アーセイはアメリカの暮らしを定義づけるものを熱心にコレクションしていた」と語る。出品物の目玉の一つは、ビートルズが1964年に『エド・サリヴァン・ショー』へ初出演した際に使われたロゴ入りのバスドラムのヘッド(皮)で、100万ドル(約1億5700万円)で出品される。さらに、映画『ロッキー』でシルベスター・スタローンが使用した脚本草稿も含まれ、クリスティーズは評価額を20万ドル(約3130万円)としている。草稿は5年前、ジュリアンズ・オークションでアーセイが1万6000ドル(約250万円)で落札した経緯がある。
これ以外にも、ロン・ハワードが監督した『キャスト・アウェイ』でトム・ハンクスの精神的支柱となったバレーボール、ウィルソンも出品され8万ドル(約1250万円)の予想最高落札価格がつけられている。

「地球上最高のギターコレクション」
鑑定士のシメオン・リップマンによれば、メモラビリア市場は5〜10年の間で爆発的に成長したという。その要因のひとつとして、小道具制作会社と直接取引するオークションハウスの登場が挙げられる。市場の急成長を象徴する例が、『オズの魔法使い』でジュディ・ガーランドが履いたルビーの靴だ。この靴は2005年に盗まれ、10年以上を経て発見されたという経緯でも注目され、2024年のオークションに出品された際には手数料込みで3250万ドル(当時の為替で約49億円)で落札された。一方で、市場が活発になると真贋リスクも増える。2025年秋には真贋問題を理由に、サザビーズがメモラビリア関連のオークション2件を中止した。
アーセイのコレクションからは350点のアイテムが出品されるが、そのうちおよそ200点はギターだという。出品されるものはまだ調整中だが、ギターの予想総落札価格は約3000万ドル(約47億円)にのぼる。
ギター専門のオンラインメディア「Guitar.com」は、アーセイが築き上げたギターコレクションを「地球上で最高のもの」と2022年に評している。キーンもまた、このコレクションはアメリカ製ギターの歴史をたどれるほど幅広く、百科事典のようだと語る。自身もギターを演奏していたというアーセイは、プリンスやデヴィッド・ギルモア、ジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、エリック・クラプトンがかつて使用していたギターを所有していた。
なかでも、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアの愛機である「タイガー」は特筆すべき1本だと言える。このギターは、ギター職人のダグ・アーウィンによって製作され、100万ドル(約1億5600万円)の評価額がついている。ガルシアはこのギターを1995年7月にシカゴのソルジャー・フィールドでグレイトフル・デッドとして実施した最後のライブで使用している。ガルシアはその1カ月後にこの世を去った。鑑定士のリップマンは「モーツァルトのピアノ」のように重要なギターだと語っている。
アーセイはギター以外にも、マイルス・デイヴィスのトランペットやジョン・コルトレーンのサクソフォン、エルトン・ジョンのピアノ、さらにはポール・マッカートニーによる手書きの「Hey Jude」の歌詞なども収集しており、マッカートニーの手書き歌詞は推定60万ドル(約9400万円)となっている。また、「ウィンター・ダンス・パーティ」と題されたコンサートツアーを宣伝するポスターも出品されるという。1959年2月3日のイベントを告知するこのポスターには、バディ・ホリーとリッチー・ヴァレンス、そしてJ.P."ビッグ・ボッパー"・リチャードソンが名を連ねていた。このコンサートに向かう途中で3人は飛行機の墜落事故によって亡くなった。シンガー・ソングライターのドン・マクリーンが手がけた「アメリカン・パイ」のなかで、この出来事を「音楽が死んだ日」として歌ったことから、この墜落事故は音楽史に刻まれている。このポスターには30万ドル(約4700万円)の予想落札価格がついている。
ビート・ジェネレーションを象徴する小説の原稿も
スポーツ関連のメモラビリアを挙げると、1973年にアメリカクラシック三冠を達成した名馬セクレタリアトが装着した鞍が出品される。また、ジャッキー・ロビンソンが1953年の試合で使ったバットも出品される予定で、25万ドル(約3900万円)の評価額がついている。このほかにも、ジャック・ケルアックがアンフェタミンを使ってハイになりながら書き上げた小説『路上』の原稿も目玉商品として挙げられる。巻物状の原稿の予想落札価格は250万ドル(約3億9000万円)だ。

アーセイは2021〜2024年にかけて全米10都市でコレクションを展示したが、生前は手放す考えを示してこなかった。ブルームバーグの取材でも「10億ドル(約1565億円)支払われようとも」売却することはないと語っている。
実際、当時も彼はコレクションを拡大しており、カート・コバーンが愛用した1966年製フェンダー・ムスタングをジュリアンズ・オークションで460万ドル(現在の為替で約7億2000万円)で入手している。一方で、モハメド・アリが1974年に獲得したとされるチャンピオンベルトを620万ドル(約9億7000万円)で過去に落札しているが、真贋を疑う声もあることから、今回は出品目録に含まれていないという。
また、ボブ・ディランが1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルで演奏したとされるエレキギターも出品されない。このギターをめぐっては、ディランが「ニューポートで使ったものではない」と主張し、売り手との間で訴訟となった。和解後の2013年、クリスティーズのオークションに出品され、アーセイが100万ドル弱で落札している。真贋に疑問が残ることから、今回は出品を見送ったとみられる。
オークションに出品される品々についてリップマンはこう語る。
「今回出品されるアイテムは、どれも歴史的瞬間に立ち会ってきたものばかりです。こうした品々を見抜く才がアーセイにはあったのでしょう。これほど多くの素晴らしいアイテムが一度に出品されるのは珍しいことです」
(翻訳:編集部)
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