ARTnewsJAPAN

ケネス・C・グリフィン(Kenneth C. Griffin)

拠点:アメリカ・マイアミ
職業:ヘッジファンド
収集分野:現代アート、後期印象派

大手ヘッジファンド、シタデル創業者のケネス・C・グリフィンは、億万長者のフィランソロピストだ。ハーバード大学在学中、寮の屋根に衛星アンテナを設置してリアルタイムで株取引を行い、卒業前に最初の会社を立ち上げたのが、巨額の資金を動かす金融の世界への入り口だった。

グリフィンが2億3800万ドル(約345億円)を投じたマンハッタンの4階建てのペントハウスを、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「アメリカで最も高価な家」と呼んだが、これは彼の高額な買い物の一例に過ぎない。アート作品でも大物買いが多く、2020年にはジャン=ミシェル・バスキアの《Boy and Dog in a Johnnypump》(1982)を1億ドル(約145億円)で購入すると、すぐに自分が長年理事を務めているシカゴ美術館に展示した。

グリフィンはかつて、アートを支援する長期的な取り組みについて、こう語った。「芸術は私たちの街の魂です。それを体験することで、私たち1人ひとりが個人的に成長する機会を得られると考えています」

彼は世界で最も活発なアートコレクターの1人で、やはりトップ200コレクターズに選ばれているデヴィッド・ゲフィンから3億ドル(約435億円)で購入したウィレム・デ・クーニングの貴重な作品をはじめ、ジャクソン・ポロック、ポール・セザンヌ、ジャスパー・ジョーンズ、ジデカ・アクーニーリ・クロスビーなど数多くの有名作品を所有している。

2004年にはポール・セザンヌの絵画《カーテン、水差しと果物入れ》(1893年頃)を6000万ドル(約87億円)という当時の史上最高価格で手に入れ、2006年にはジャスパー・ジョーンズの《False Start》(1959)をデヴィッド・ゲフィンから8000万ドル(116億円)で購入したとされる。この絵は、1988年のサザビーズのオークションで、S・I・ニューハウスの代理を務めるラリー・ガゴシアンが当時の史上最高額1700万ドル(約25億円)で落札したことで美術史に名を残している。また、同じ2006年、グリフィンはレンゾ・ピアノ設計によるシカゴ美術館のモダン棟の拡張工事に1900万ドル(約28億円)を寄付した。同美術館には、グリフィンが貸し出したセザンヌの作品も展示されている。

2021年、合衆国憲法初版のオークションで、グリフィンは約1万7000人の暗号資産集団「ConstitutionDAO」との競り合いを制し、4320万ドル(約63億円)でこれを落札。「合衆国憲法は、全てのアメリカ人と、アメリカ人になりたいと願う全ての人の権利をうたった神聖な文書だ」と語るグリフィンは、この文書をアーカンソー州ベントンビルにあるクリスタルブリッジズ・ミュージアム・オブ・アメリカンアートに貸し出すという。

グリフィンはまた、美術館や博物館への寄付も活発に行っている。2015年にはニューヨーク近代美術館に4000万ドル(約58億円)、シカゴ現代美術館に1000万ドル(約14億5000万円)を寄付。2018年にはフロリダ州ウェストパームビーチのノートン美術館に1600万ドル(約23億円)、2019年にはニューヨークのパフォーミングアートセンター兼アートスペース、ザ・シェッドに2500万ドル(約36億円)、同じ年にシカゴの科学産業博物館にも1億2500万ドル(約181億円)という巨額の寄付を行った。同博物館はこの寄付を受け、名称を変更することを発表している。

2021年には、ワシントンD.C.にあるスミソニアン航空宇宙博物館に「Exploring the Planets」と題した展覧会を開催するための1000万ドル(約14億5000万円)を寄付し、同展を開催する展示室は彼の名を冠することになった。2022年にはニューヨークのアメリカ自然史博物館でオープン予定の「科学・教育・イノベーションセンター」に4000万ドル(約58億円)を寄付。同館は、4階建てのセンターのアトリウムにグリフィンにちなんだ名を付ける予定だ。

長年シカゴに住んでいたグリフィンだが、2022年6月にシタデルの本社と自らの住居をマイアミに移すと発表し、大きな話題となった。


注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。

あわせて読みたい