エイドリアン・チェン(Adrian Cheng)

拠点:香港
職業:小売業、不動産業(K11、新世界発展)
収集分野:現代アート

エイドリアン・チェンが現代アートのコレクションを始めた2010年、彼は既に家業の小売ビジネスを率いる若き資産家だった。チェンは、祖父が設立した香港有数の不動産・小売コングロマリットである新世界発展の傘下に、K11アートモールを立ち上げている。

チェンには2つの信念がある。1つは、アートは大衆のものだということ。もう1つは、大衆はショッピングモールに行くということだ。彼が「新しい美術館モデル」と呼ぶK11アートモールの中心に位置付けられているのはアートだ。メインフロアにある商業施設は、地下に設けられた美術館の資金源となり、かつ集客装置として機能する。2022年、チェンはK11の中国本土進出を目指し、広東省深センに22万平方メートル、総額14億ドル(約2000億円)の複合型文化施設を建設する計画を発表した。

香港と上海に展示スペースを持つチェンのK11アート財団は、中国の主要都市で60以上の展覧会を開催し、カタリーナ・グロッセ、グアン・シャオ、ナイール・ベルーファ、チャン・エンリ(張恩利)、オスカー・ムリーリョなど、世界的現代アーティストの作品を紹介してきた。また、ニューヨークの代表的アートフェア、アーモリーショーが2014年に開催したリャン・ユアンウェイ(梁遠葦)のチャイナシンポジウムやヴェネチア・ビエンナーレのポップアップ展示のほか、チャン・エンリがロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで、チェン・ラン(程然)がニューヨークのニューミュージアムでレジデンスを行うなど、中国国外でも大型プロジェクトを展開している。

チェンが目指しているのは、一般大衆にアートを広げること、そして中国の現代アートの認知度を高めることだ。「中国の新しい現代アートは、その文化的アイデンティティを再構築し、新しい中国文化を構築しつつあると思う」と、チェンは2014年にUS版ARTnewsに語っている。

チェンはまた、自身のアートモール以外にも活動範囲を広げている。2016年にニューヨークを拠点とするパブリックアートファンドの理事、2018年11月にはロサンゼルス現代美術館の理事に就任。後者は、同館の新館長となったクラウス・ビーゼンバッハが最初に下した主な決定の1つだ。さらに、香港版タトラー誌によると、2019年5月に米ファッションデザイナー協議会は、チェンを「ブランドの海外展開と成長を目指すアメリカのデザイナーをサポートする、初のグローバルアンバサダー」に任命した。


注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。