ピーター・M・ブラント(Peter M. Brant)

拠点:アメリカ・コネチカット州グリニッジ
職業:製紙・出版業
収集分野:現代アート、デザイン・インテリア

父から製紙会社ホワイト・バーチ・ペーパーの経営を継いだピーター・M・ブラントは、大学時代に株式市場で一山当てた儲けで2点のアンディ・ウォーホル作品とフランツ・クラインの作品を購入。以来、現代アートの収集を続け、有数のウォーホルコレクターとなった彼にウォーホルから会いたいと声がかかり、2人は親交を深めるようになった。1976年、ブラントは自分の飼っていたコッカースパニエル、ジンジャーの絵をウォーホルに依頼し、1977年にはジェド・ジョンソン監督の映画『アンディ・ウォーホルのBAD』の制作に協力している。

ブラントはまた、ウルス・フィッシャーやマウリツィオ・カテランといったアーティストに大作の制作を依頼。カテランは、ブラントが壁に飾っていた動物の頭部の剥製(トロフィー)に着想を得て、ブラントの妻でスーパーモデルのステファニー・シーモアの胸像が壁から突き出ている「トロフィー・ワイフ」(*1)と呼ばれる作品を制作した(正式なタイトルは《ステファニー》)。ブラントのコレクションには、ウォーホル、ジャン=ミシェル・バスキア、ジェフ・クーンズの作品が数多く含まれ、その一部はコネチカット州グリニッジのブラント財団アート&スタディセンターに収蔵されている。


*1 地位も財産も得た男性が、成功した後に自らのステータスシンボルにするため結婚した女性。

1993年、ブラントと妻のステファニー・シーモアは、ビルバオ・グッゲンハイム美術館の屋外エリアにあるクーンズの立体作品《パピー》の複製を依頼し、コネチカット州にある展示スペースに設置した。巨大な仔犬の形をしたこの作品は何万という生花で覆われているため、維持には多額の費用がかかる。2019年にはニューヨークのイーストビレッジに、ブラント財団の2つ目の展示スペースを開設。こけら落としにはバスキア展が開催された。

ビジネス面では、ブラントは積極的に企業買収を進め、ホワイト・バーチ・ペーパーを全米第2位の印刷用紙メーカーに押し上げた。また、雑誌出版にも進出し、1987年のウォーホルの死後、彼が創刊したインタビュー誌を買収している。ブラントがインタビュー誌の編集長に任命したのは、1979年から88年までアートフォーラム誌の編集者だったイングリッド・シシィ。シシィはブラントの当時の妻、サンドラとの関係が明るみに出て、ブラントがサンドラの持ち株を買い戻すまでの18年間、編集長の座にあった。

インタビュー誌は2018年5月に破産を申し立てたが、同年9月にブラントの娘ケリーによって企業再生後の新たなスタートを切った。ブラントはまた、アート・イン・アメリカ誌など複数の美術雑誌を所有していた。2015年にアート・イン・アメリカ誌とARTnewsを合併させて2015年から18年までその会長を務めた後、18年にARTnewsの親会社をPMCに売却している。

ブラントは、2本のアーティストの伝記映画など、数本のアート関連映画の制作にも携わっている。1996年の『バスキア』ではジェフリー・ライトが主役を演じ、2000年の『ポロック 2人だけのアトリエ』ではエド・ハリスが主人公の抽象表現主義画家、ポロックを演じた(2人の主演俳優は後にHBOのSFドラマ、「ウェストワールド」で共演)。また、アンディ・ウォーホルの生涯を描いたドキュメンタリーシリーズ「American Masters」では、エピソードの1つでエグゼクティブプロデューサーを務めている。