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パトリック・ドラヒ(Patrick Drahi)

拠点:スイス
職業:オークションハウス(サザビーズ)オーナー、メディア・通信
収集分野:印象派、モダンアート、東洋美術

通信・メディア事業を手がける大手企業の創業者、パトリック・ドラヒは、2019年までアート界で名の知れた存在ではなかった。実際、その年に著名アートディーラーのブレット・ゴーヴィは、ニューヨーク・タイムズ紙に「ドラヒのことを知る人はほとんどいない」と語っていた。しかし、ドラヒが自らの所有する企業の1つ、ビッドフェアUSAを通じてオークションハウスのサザビーズを37億ドル(約5400億円)で買収すると状況は一変する。

競合のクリスティーズとは異なり、当時サザビーズは上場企業だったため、買収によって株式が非公開化されるのは劇的な変化だった。リッソン・ギャラリーのエグゼクティブ・ディレクター、アレックス・ログスデールはそのとき、US版ARTnewsにこう語っている。「3大オークションハウスが全て非公開会社になったことで、保証や取り消し不能入札などで従来とは比べものにならないほど競争が激しくなるのは間違いない」

ドラヒが関わった大型買収はサザビーズだけではない。オランダに本社を置く彼の通信サービス会社アルティスは、米国部門を通じて2015年にケーブルテレビ事業者のサドンリンクとケーブルヴィジョンを177億ドル(約2兆5800億円)で買収した。しかし、米フォーブス誌によると2020年10月現在で60億ドル(約8800億円)以上の純資産を持つドラヒにとっても、サザビーズの買収はアート界という未知の世界への参入という大きな意味を持つものだった(推定資産額は日々更新される)。

スイスに住むドラヒは人前に出ることが少なく、インタビューにもほとんど応じないため、当初サザビーズの経営方針はベールに包まれていた。2021年4月には当時26歳の息子、ネイサンをサザビーズのアジア事業のマネージングディレクターに据え、15年の長きにわたりアジアでCEOを務めてきたケビン・チン・ソーホンの後を引き継がせた。同じ年、ドラヒがサザビーズを再上場させるのではないかという噂が流れたが、将来構想については今もはっきりしていない。

ドラヒは長年、サザビーズのあまり目立たない顧客だった。彼のコレクションについてはほとんど公になっていないが、その一端をうかがえるような発言をした人物がいる。世界各国のオークションハウスと提携し、価格のデータベースや査定サービスを提供するアートプライス社のCEO、ティエリー・アーマンだ。そのアーマンがAFP通信に話したところによると、ドラヒはマルク・シャガールを中心に、印象派やモダンアートの作品、東洋美術を相当数所有しているという。

注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2024年版トップ200コレクターズが発表された2024年10月時点の為替レートによる。

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