エレーヌ&ベルナール・アルノー(Hélène and Bernard Arnault)
拠点:フランス・パリ
職業:LVMH会長兼CEO(ラグジュアリーブランド・コングロマリット)
収集分野:現代アート
世界最高峰のラグジュアリーブランド群を傘下に持つコングロマリット、LVMHのトップに君臨するベルナール・アルノーとその妻エレーヌは、TOP 200 COLLECTORSの中で最も裕福なカップルだ。米ブルームバーグによる2024年7月時点のビリオネア指数によると、アルノーの総資産額は約1870億ドル(約27兆3000億円)でイーロン・マスク、ジェフ・ベゾスに続く第3位。2023年4月発表のビリオネア指数では世界一だったが、翌5月にはLVMH株の急落のため、資産額が1日で112億ドル(約1兆6000億円)減少。2位のイーロン・マスクとの差が縮まるという出来事もあった。
LVMHは、2024年のパリ五輪など、さまざまなプロジェクトに巨額の資金を投入している。そのため、フランスではアルノーの資産が目の敵にされることも少なくない。たとえば2023年、年金改革による定年延長への激しい抗議運動が起きたとき、一部のデモ参加者がパリのLVMH本社に侵入して気勢を揚げた。また、同じ年にフランス政府は、アルノーがロシアのオリガルヒ、ニコライ・サルキソフの資金洗浄に関与した疑いで捜査を行っていると発表。アルノーは告発されず、弁護士はアルノーの取引が「法律に従って」行われたものと主張している。
アルノーはまた、ラグジュアリーブランドと著名アーティストによる数々のコラボレーションを実施している。たとえば、ルイ・ヴィトンではリチャード・プリンスや村上隆とのコラボでファン垂涎のバッグをリリース。ドン・ペリニヨンでは、パッケージをジェフ・クーンズに依頼した限定バージョンを発売した。
2014年には、パリのブローニュの森に1億3500万ドル(約197億円)を投じてフランク・ゲーリー設計のフォンダシオン ルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトン財団美術館)を設立。この建物には以前、芸術・民俗伝統博物館があったが、2005年以降は閉鎖されていた。戦後・現代アートを中心に、ダミアン・ハースト、パブロ・ピカソ、アンディ・ウォーホルといったトップアーティストの作品を数多く所蔵する同館のオープン時には、サラ・モリスがフランク・ゲーリー設計の建物を対象とした映像作品を制作している。
さらに2018年、ニューヨーク近代美術館から200点以上の作品(ポール・セザンヌ、マルセル・デュシャン、イヴォンヌ・ライナーなどを含む)の貸し出しを受けて超大型展覧会を開催し、75万人超を動員した。同年に行われたジャン=ミシェル・バスキアとエゴン・シーレの回顧展も高く評価され、ミュンヘン、北京、ヴェネチアなど、フランス国外への巡回展も開催している。
やはり多数のラグジュアリーブランドを擁するケリングのオーナーで、TOP 200 COLLECTORSの1人でもあるフランソワ・ピノーとアルノーがライバル関係にあることはよく知られている。2人は長年にわたってアートでもビジネスでも激しい競り合いを繰り広げており、「ハンドバッグ戦争」のように世間を騒がせた事例も多い。
2008年にサザビーズで開かれたオークションで、フランスの画家イヴ・クラインの作品2点を2人が競り合ったこともある。また、2018年にピノーのコングロマリット、ケリングを離れたファッションデザイナーのステラ・マッカートニーは、翌2019年7月にLVMHと契約したことを明らかにした。さらに2022年4月、パリのノートルダム大聖堂が火災で大きな被害を受けると、ピノー一族は聖堂の再建と修復のために1億ユーロ(約1613億円)を寄付すると発表。その数時間後、アルノーとLVMHは2億ユーロ(約322億円)の拠出を表明している。
アルノーが70代半ばにさしかかった今、5人の子どものうち誰が彼の帝国を引き継ぐことになるのかに注目が集まっている。人気テレビドラマシリーズ『メディア王〜華麗なる一族〜』で繰り広げられる後継者争いになぞらえる向きもあるが、ニューヨーク・タイムズ紙の取材に応じたアルノーはそれを否定。「子どもが私の後継者になることは義務ではないし、必然でもない」と答えている。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2024年版トップ200コレクターズが発表された2024年10月時点の為替レートによる。