ピエール・チェン(Pierre Chen)
拠点:台湾・台北
職業:電子機器製造
収集分野:近現代アート
ピエール・チェンは、1977年に設立した電子部品製造企業、ヤゲオコーポレーションで財を成した。米フォーブス誌によると、台湾トップクラスの資産家とされるチェンの2022年現在の純資産は41億ドル(約6000億円)。しかし、チェンには他の資産家と違うところがある。それは、起業前からアート収集を始めたことだ。
サザビーズマガジンに掲載された2014年のプロフィールによると、チェンのコレクションの始まりは1976年のこと。まだ学生だったときに、1年半かけて貯めたお金で香港のアーティスト、Cheung Yeeの木彫作品(25,000台湾ドル、約11万円)を購入したことだという。その後、長年にわたり、トーマス・シュトルート、ゲルハルト・リヒター、タン・ティンポーから蔡國強などまで幅広く収集。アートニュースペーパー紙によれば、ピカソを7点、フランシス・ベーコンを2点、ゲルハルト・リヒターを10点所有している。
2019年1月、チェンはアートニュースペーパー紙に、問い合わせが殺到するような大プロジェクトの計画をほのめかすようにこう語った。「将来的には、ヤゲオ財団のコレクションを展示できるスペースを作りたい。地域社会におけるアート分野の取り組みやプロジェクトに関わる可能性もある」
ピエール・チェンは私設美術館を開設するのだろうか? チェンの広報担当者がUS版ARTnewsに返信したメールの答えは「ノー」だった。少なくとも当分の間、ヤゲオコレクションはチェンがプライベートで楽しむものになるという。
「私が携わっているビジネスは変化が非常に速く、常に新しい技術が市場に出てくるので毎日が戦いと言ってもいい。人生のバランスを取るためにはアートと音楽が必要だ」。チェンはサザビーズマガジンにこう語っている。
チェンはまた、US版ARTnewsの取材に、コレクションの中で最も気に入っている作品はサイ・トゥオンブリーの《無題(ローマ)》(1971)とフランシス・ベーコンの《ルシアン・フロイドの肖像のための3つの習作》(1965)だと答えている。2015年5月には、ニューヨークのクリスティーズでピーター・ドイグの絵画《Swamped》(1990)を2600万ドル(約38億円)で落札し、ドイグのオークション記録を作った。
チェンは、30年以上にわたるワインのコレクターでもあり、フランス・ブルゴーニュ地方にぶどう畑も持っている。2021年、サザビーズはチェンのワインコレクションのためのオークションを香港で開き、1140万ドル(約17億円)を売り上げた。この結果は、アジアで行われたシングルオーナーのワインセールとしては2番目の金額となっている。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。