柳井正(Tadashi Yanai)

拠点:日本・東京
職業:ファーストリテイリング 代表取締役会長 兼 社長(小売業)
収集分野:近現代アート

Photo: Franck Robichon/EPA/Shutterstock

日本の長者番付上位に常に顔を出す柳井正は、ニューヨーカー誌の取材に「アートは勉強するものではない。美しいものは、それをじっくり見ることで楽しめる」と答えたことがある。柳井の場合、ユニクロのアートコラボTシャツのように「着ることで楽しめる」とも言えるだろう。柳井は、ユニクロのほか、ヘルムートラング、セオリー、Jブランドなどを擁するアパレル小売の巨人、ファーストリテイリングの会長兼社長だ。経営者向けビジネス誌CEOマガジンによる評価では、2020年9月時点の柳井の純資産は128億8000万ドル(約1兆9000億円)とされる。

山口県宇部市で紳士服店を経営していた父を持つ柳井は、ファッションの世界に進むことを運命づけられていたようだ。実家が営む会社に入って十数年後の1984年、ユニーク・クロージング・ウェアハウス(後にユニクロと改称)の1号店をオープン。1998年には日本全国に300店舗以上を展開するまでになり、その後も成長を続けていった。かつて柳井はモノクル誌に、「私は成功者に見えるかもしれないが、数多くの失敗をしてきた。人は失敗することを深刻に考えすぎる」と語っている。

ユニクロは、これまで何度もニューヨーク近代美術館(MoMA)とのコラボを実施している(一時期は、毎週金曜日の入館料が無料になるフリーフライデーへの資金提供も行っていた)。2014年には、SPRZ NYコレクションを発表。マンハッタンのフィフス・アベニューにあるユニクロの旗艦店には、MoMAが所蔵する有名アーティストの作品をあしらった数百点のアイテムを手に入れようとする人々が殺到した。コラボ商品にフィーチャーされたのは、アンディ・ウォーホル、ジャクソン・ポロック、ジャン=ミシェル・バスキア、キース・ヘリング、ライアン・マクギネス、サラ・モリス、ジャック・ピアソン、ローレンス・ワィナーなど、存命作家から故人まで幅広い。草間彌生をイメージした5.90ドル程度のバンダナなど、中には手頃なアイテムもあった。

2019年秋、ユニクロはMoMAのリニューアルオープンを記念としたコラボで、カラー&リズムUT(グラフィックTシャツ)シリーズを発売。同シリーズの商品は、やはりトップ200コレクターズにランクインしているパトリシア・フェルプス・デ・シスネロス&グスタボ・A・シスネロスがMoMAに寄贈したカルメン・ヘレラ、リジア・パペ、エリオ・オイチシカなどの作品にインスピレーションを得ている。

柳井は、自身の所蔵品のことを「コレクションと呼べるかどうか」と控えめな言い方をするが、はたから見れば相当なものだ。ニューヨーカー誌に「引退後はアート収集にもっと時間を使うのか」と問われた彼は、こう答えている。「いや、それはないと思う。ゴルフとビジネスにしか興味がないから」


注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。