デヴィッド・ゲフィン(David Geffen)
拠点:アメリカ・ロサンゼルス
職業:映画・音楽プロデューサー、投資家
収集分野:近現代アート、戦後美術(特に抽象表現主義)

エンタテインメント界の大物、デヴィッド・ゲフィンは、マーク・ロスコやジャクソン・ポロックといった戦後美術の巨匠のコレクションで知られる。ゲフィンの出身地であるロサンゼルスの現代美術館で、1990年から2012年まで長きにわたってチーフキュレーターを務めたポール・シンメルは、「どの作品も戦後のアメリカ美術を代表するものです。デヴィッド・ゲフィンのコレクションほど優れたものはありません」と2006年にロサンゼルス・タイムズ紙に語っている。「オールドマスターの最高峰を集めたフリック・コレクションのように、アメリカの戦後美術にはゲフィン・コレクションがあるのです」
米フォーブス誌の推計によると、ゲフィンの純資産は2024年12月時点で86億ドル(約1兆2600億円)。超高額作品の売買で有名な彼は、2016年にデ・クーニングとポロックを5億ドル(約730億円)でTOP 200 COLLECTORSの1人、ケネス・C・グリフィンに譲渡。2006年にはジャスパー・ジョーンズ2点とデ・クーニングをそれぞれ8000万ドル(約117億円)と6350万ドル(約93億円)で売却し、そのわずか1カ月後にはジャクソン・ポロックの絵画《No.5, 1948》(1948)を、やはりTOP 200 COLLECTORSに名を連ねるメキシコの投資家、デヴィッド・マルチネスに1億4千万ドル(約204億円)で売却したとニューヨーク・タイムズ紙が報じている。このとき《No.5, 1948》は、グスタフ・クリムトの《アデーレ・ブロッホ=バウアの肖像 I》が持っていた記録を塗り替え、史上最高額を樹立した。ちなみに、クリムトの作品は、同じ年に化粧品業界の重鎮でTOP 200 COLLECTORSの1人でもあるロナルド・ローダーが、1億3400万ドル(約196億円)で購入している。
ゲフィンのコレクター仲間との付き合いは、美術品の取引にとどまらない。2020年3月、新型コロナウィルスの感染拡大により世界各地でロックダウンが実施される直前、ビバリーヒルズの自宅を、同年にTOP 200 COLLECTORSに加わったアマゾン創業者のジェフ・ベゾスに売却。その価格は、1億6500万ドル(約241億円)というカリフォルニアでも最高クラスのものだった。ゲフィンが1990年代から所有していたこの邸宅は、ワーナー・ブラザーズの設立者の1人、ジャック・ワーナーのために1920年代に建てられたという輝かしい来歴を持つ物件だ。ちなみに、この取引の数週間後、ゲフィンは5億9000万ドル(約861億円)のスーパーヨット「ライジング・サン」で自己隔離しているとインスタグラムに投稿して炎上。その後すぐに投稿は削除された。
美術館への寄付額でも群を抜くゲフィンは、2015年にリンカーン・センターに1億ドル(約146億円)、2016年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)にも同じく1億ドルを寄付。2017年、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)に寄付を表明した1億5000万ドル(約219億円)は同美術館史上最高額で、LACMAがピーター・ズントーの設計で建築中の展示棟にはゲフィンの名前が冠される(2026年春オープン予定)。また、2021年にロサンゼルスにオープンしたアカデミー映画博物館でも、2500万ドル(約36億5000万円)の寄付を受けてゲフィンの名を冠した劇場が設けられた。
2016年にMoMAのグレン・D・ローリー館長は、1億ドルにのぼるゲフィンの寄付について、「現実とは思えない金額です」とニューヨーク・タイムズ紙に語っている。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2024年版トップ200コレクターズが発表された2024年10月時点の為替レートによる。