デヴィッド・ゲフィン(David Geffen)

拠点:アメリカ・ロサンゼルス
職業:映画・音楽プロデューサー、投資家
収集分野:近現代アート、戦後美術(特に抽象表現主義)

エンタテインメント界の大物デヴィッド・ゲフィンが、マーク・ロスコやジャクソン・ポロックといった戦後美術の有名作家をコレクションしているのはよく知られている。ゲフィンの出身地にあるロサンゼルス現代美術館で、1990年から2012年まで長年にわたりチーフキュレーターを務めたポール・シンメルは、「どの作品も戦後のアメリカ美術を代表するものです。デヴィッド・ゲフィンのコレクションほど優れたものはありません」と2006年にロサンゼルス・タイムズ紙に語った。「オールドマスターの最高峰を集めたフリック・コレクションのように、戦後のアメリカ美術にはゲフィン・コレクションがあるのです」

米フォーブス誌の推計によると、2021年10月時点で101億ドル(約1兆4600億円)の純資産を有するゲフィンは、超高額作品の売買でも有名だ。2016年に、所有していたデ・クーニングとポロックを5億ドル(約725億円)でトップ200コレクターズの1人、ケネス・C・グリフィンに譲渡。2006年にはジャスパー・ジョーンズ2点とデ・クーニングをそれぞれ8000万ドル(約116億円)と6350万ドル(約92億円)で売却し、そのわずか1カ月後にはジャクソン・ポロックの絵画《No.5, 1948》(1948)を、やはりトップ200コレクターズに名を連ねるメキシコの投資家、デヴィッド・マルチネスに1億4千万ドル(約203億円)で売却したとニューヨーク・タイムズ紙が報じている。このとき《No.5, 1948》は、グスタフ・クリムトの《アデーレ・ブロッホ=バウアの肖像 I》が持っていた記録を塗り替え、史上最高額を樹立した。このクリムト作品は、同じ年に化粧品業界の重鎮でトップ200コレクターズの1人でもあるロナルド・ローダーが、1億3400万ドル(約194億円)で購入したものだ。

ゲフィンのコレクター仲間との付き合いは、美術品の取引にとどまらない。2020年3月、新型コロナウィルスの感染拡大により世界各国でロックダウンが実施される直前、ビバリーヒルズの自宅を、同年にトップ200コレクターズに加わったアマゾン創業者のジェフ・ベゾスに売却。その価格は、1億6500万ドル(約94億円)というカリフォルニアでも最高クラスのものだった。ゲフィンが1990年代から所有していたこの邸宅は、ワーナー・ブラザーズの設立者の1人、ジャック・ワーナーのために1920年代に建てられたという輝かしい来歴を誇る物件だ。ちなみに、この取引の数週間後、ゲフェンは5億9000万ドル(約860億円)のスーパーヨット「ライジング・サン」で自己隔離しているとインスタグラムに投稿して炎上し、すぐに削除している。

美術館への寄付額の大きさにも定評があるゲフィンは、2015年にリンカーン・センターに1億ドル(約145億円)、2016年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)にも同じく1億ドルを寄付した。2017年、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)に1億5000万ドル(約218億円)の寄付を約束したが、これは同美術館史上最高額だ。寄付の一環として、LACMAが近々建設するピーター・ズントー設計の展示棟にはゲフィンの名前を冠することが予定されている。2021年にロサンゼルスにオープンしたアカデミー映画博物館でも、2500万ドル(約36億円)の寄付を受けてゲフィンの名を冠した劇場が設けられた。

MoMAのグレン・D・ローリー館長はゲフィンの寄付について、「現実とは思えない金額です」と、2016年にニューヨーク・タイムズ紙に語っている


注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。