IKEAバッグで戻ったゴッホ作品、盗難時に受けた深い傷の修復を経て、4年ぶり一般公開へ
2020年3月30日の深夜にオランダの美術館から盗まれたフィンセント・ファン・ゴッホの初期作品《春のヌエネンの牧師館の庭》(1884)が、来月、約4年ぶりに一般公開される。
2月7日、フローニンゲン美術館での記者会見に登場したゴッホの《春のヌエネンの牧師館の庭》には、盗難に遭った際に受けた深く白い傷がカンバスの下部にあった。この作品は、同美術館からシンガーラーレン美術館に貸し出されていたが、コロナ禍での休館時に発生した強盗事件で所在が分からなくなっていた。
その後、オランダのメディアが「ニルスM」が呼ぶ実行犯と、窃盗を計画したとされるピーター・ロイ・Kは逮捕され、実刑判決を受けた。しかし、作品はそれから何年も行方不明のままだった。
この絵を取り戻したのは、美術を専門とする私立探偵のアーサー・ブランドだ。彼は、ピカソの絵やオスカー・ワイルドが所有していた指輪など、さまざまな盗品のありかを突き止めた実績で知られている。
ブランドの話によると、昨秋のある晩遅くに玄関のドアがノックされ、匿名の男がクシャクシャになった青いIKEAのバッグをブランドに渡して走り去った。この引き渡しは事前の交渉で決められていたもので、警察にも知らせてあった。それでも、バッグを受け取ったブランドは興奮のあまり入り口の階段を駆け上がり、急いで中を確認したという。
そこには、気泡緩衝材に包まれた絵画があった。開梱するところを同僚に撮影させつつ、捜査の過程で入手した行方不明時の写真と作品の背面を見比べたブランドは思わずこう口にした。
「ゴッホだ。フィンセント・ファン・ゴッホが帰ってきた。なんて日だ」
ブランドは、この絵は売買されないまま犯罪組織の間を行き来していた可能性が高いと見ている。その評価額は300万ユーロから600万ユーロ(直近の為替レートで約4億8000万円〜9億6000万円)だが、おそらく苦労して処分するほどの価値がなかったのだろうとして、ブランドはガーディアン紙にこう語った。
「犯罪組織の間であちこち移動していることは分かっていましたが、誰もこの絵に手を出そうとしませんでした。トラブルに巻き込まれるだけで、彼らにとっては価値のない厄介な代物だったというわけです」
ロッテルダム美術館の修復士、マルヤン・デ・フィッセルがガーディアン紙に答えたところによると、作品が負った傷は「相当深く、表面のワニスから絵の具、下塗りまで全ての層を貫いている」という。
ホコリや汚れが取り除かれた《春のヌエネンの牧師館の庭》は、現在、本格的に修復中。デ・フィッセルは最適な修復方法を探るため、過去の修復やゴッホが用いていた材料を調査しながら作業を進めている。
オランダ北部にあるフローニンゲン美術館で一般公開が始まるのは、3月29日からの予定。(翻訳:石井佳子)
from ARTnews