「美」を「見る」とはどういうことか。ポーラ「B.A」がTokyo Gendaiでひらいた新たな視点

江戸時代の浮世絵と鏡台、東信のアートワーク、そして現代アートの見方をひらくガイドツアー。Tokyo Gendai 2026にオフィシャル・ビューティー・パートナーとして参加したポーラB.Aが、アートフェアという場を通じて提示した「美」と「見ること」の可能性をレポートする。

Tokyo Gendai 2026_Official Beauty Partner_Pola
Tokyo Gendai 2026にオフィシャル・ビューティー・パートナーとして参加したPOLA「B.A」のブース。Photo: Tokyo Gendai

2026年9月に横浜で開催された国際アートフェア「Tokyo Gendai」で、会期を通じてひときわ賑わっている一角があった。同イベントにオフィシャル・ビューティー・パートナーとして参加した、ポーラの最高峰ブランド「B.A」のブースだ。

太古の自然から植物、そして人間の気配へ──異なる時間軸に属するものを作品の中に重ねることで「時間とは何か」を考えさせる、フラワーアーティストの東信による象徴的なアートワークが、ブースの入り口で来場者を迎え入れる。長年コラボレーションを続けるB.Aと東に共通するのは、固定された「美」ではなく、変化し続ける生命そのものに美を見出そうとする視点だ。

ブース入り口に展示された、フラワーアーティストの東信の作品。Photo: Kazuki Maeda (MAETTICO)
東信のアートワークが展示されたブース内の一角。Photo: Kazuki Maeda (MAETTICO)
ポーラ文化研究所所蔵の《江戸名所百人美女》レプリカ展示風景。Photo: Kazuki Maeda (MAETTICO)
ポーラ文化研究所所蔵の《江戸名所百人美女》レプリカ展示風景。Photo: Kazuki Maeda (MAETTICO)
ポーラ文化研究所所蔵の江戸時代後期の鏡台と当時の化粧道具。Photo: Kazuki Maeda (MAETTICO)

ブランドが「Inclusion Black」と呼ぶ黒を基調としたその空間に足を踏み入れると、まず、江戸時代後期の浮世絵に目が奪われる。展示されたのは、化粧文化を学術的に研究するポーラ文化研究所が所蔵する《江戸名所百人美女》から選ばれた4点のレプリカ。同研究所では、国内外の化粧道具や装身具、文献、浮世絵などの歴史資料を収集し、時代によって移り変わる美容や化粧の文化を研究してきた。

《江戸名所百人美女》には、江戸の名所とともに、その土地にゆかりのある女性たちの日常が描かれている。今回紹介された作品にも、櫛で髪をとかす、湯で顔をぬぐう、眉を整える、鏡で首元を確かめるといった仕草が登場する。その傍らには、作品の中にも描かれている江戸時代後期の鏡台が置かれ、紅や白粉、刷毛といった当時の化粧道具も展示された。

鏡を見る。肌を整える。髪を整える。そしてもう一度、自分の姿を確かめる。江戸時代に鏡の普及が進み、鏡台が一部の特権階級だけではなく裕福な町人にも広がっていったことを考えれば、鏡の前で自分自身を見つめる時間そのものが、人々の日常へと入り込んでいった時代だったことが窺える。

人の身体から生まれたB.Aのかたち

ブース内で紹介された、POLA「B.A」第7世代ボトル・モックアップ。Photo: Kazuki Maeda (MAETTICO)

その数百年後に位置するものとして展示されていたのが、1985年に誕生し、41年目を迎えたB.Aだ。昨秋、第7世代へとリニューアルしたB.Aのボトルには直線がなく、人間の身体を思わせる曲線によって構成されている。そのため、見る角度によって輪郭や表情が変化する。社内デザイナーが人体のスケッチを繰り返し、人の造形美と向き合うことから生まれたデザインには、B.Aが掲げる「人の可能性は広がる」という考え方の通り、その人の中に存在する可能性をどう引き出すかというブランドの思想が反映されている。そして、「美」とは完成された一つの理想像に近づくことではないというメッセージも受け取ることができる。

ブースにはさらに、プリツカー賞建築家であり、世界各地の美術館建築でも知られるSANAAの妹島和世が空間設計を手がけたポーラのグローバルフラッグシップストア、ポーラ ギンザの模型も展示された。

アートフェアの「舞台裏」

Paceのブースでローレン・クインの作品について対話するガイドの三宅敦大と参加者たち。Photo: Kazuki Maeda (MAETTICO)

そして今回、ブース展示と並んでもう一つの重要な取り組みとなったのが、Tokyo Gendaiの会場を巡るスペシャルガイドツアーだ。

会期を通じてTokyo GendaiのVIP、ポーラの顧客、ARTnews JAPANの読者など、約73人が参加した。Tokyo Gendaiを含むアートフェアそのものを訪れるのが初めてという人が半数以上を占めた一方、海外の美術館を訪ねたり、国内の展覧会に足を運んだり、美大で制作を学んでいたりと、それぞれに異なるかたちでアートと接点を持つ人が多かった。

ツアーが目指したのは、注目作品を順番に紹介する、いわゆる「見どころツアー」とは少し異なるものだった。ガイドは参加者の関心や当日の会場の状況に応じてルートを変えながら、個々の作品や作家だけでなく、そもそもアートフェアとはどのような場所なのか、ギャラリーはどんな役割を果たし、作品の評価や流通はどのように形づくられていくのか、といった背景にも話を広げた。

ガイドの一人、キュレーターの三宅敦大は、作品の解説以上に「フェアという場所の特性や意義、多様性」を伝えることを意識したという。フェアの構造を俯瞰することは、ギャラリーの立場やアーティストの社会的評価を理解し、自分自身で作品の背景や文脈を探っていく手がかりになるからだ。実際、作品についてあえて説明しすぎないことで、参加者同士が自分の気になった作品を紹介し合う場面も生まれたという。

教える人と教えられる人に分かれるのではなく、それぞれの「見る」が交換されていく。それは、アートフェアを別の角度から体験する方法でもあった。

見る人自身の「視点」をひらく

TARO NASUのブースにて、自身の新作の前でガイドツアー参加者と言葉を交わすライアン・ガンダー。Photo: Kazuki Maeda (MAETTICO)

参加者の反応が大きかったのも、必ずしも有名作家の作品解説だけではなかった。たとえばHaruka Ito by Islandのブースでは、谷口正造の作品を目当てにVIPプレビューの入場列に並んだコレクターが複数いたことや、作品が早々に売約となったエピソードを紹介。参加者は、作品そのものだけでなく、作家を支えるギャラリーとコレクター、そして市場の関係にも強い関心を示した。別の回では、参加者が会場に居合わせたライアン・ガンダーと10分ほど言葉を交わす場面もあった。

現代美術を理解するためには、必ずしも美術史の知識から入る必要はない。自分がすでに持っている経験や知識を足場にして、目の前の作品や、それを取り巻く世界へ入っていくこともできる。ガイドを務めた半田颯哉がツアーで意識したのも、参加者が後日、別の展覧会で知らない作家の作品に出会ったときにも楽しめるような「視点」を持ち帰ってもらうことだった。

普段なら「わからない」と通り過ぎてしまうかもしれない作品の前で立ち止まり、見る。疑問があれば質問し、自分なりに考え、誰かと感想を交わしてみる。こうした体験もまた、多くの作品と、それをつくり、売り、買い、見る人々が一つの場所に集まるアートフェアならではの醍醐味であり、そこでのコミュニケーションを通じて、ひいては作品を所有するという選択肢を考える最初の一歩にもなり得る。

POLA「B.A」第7世代のボトルデザインは、身体の造形美と向き合うことから生まれた。Photo: Kazuki Maeda (MAETTICO)

こうして振り返ると、Tokyo Gendaiで展開された、江戸時代の浮世絵や鏡台、B.A、東信のアートワーク、そしてガイドツアーという一見異なる試みに、一つの共通項が見えてくる。

それは、何を美しいとするかを一方的に提示するのではなく、見る人自身の視点をひらくことだ。江戸時代の女性が鏡台の前で自分の姿を見つめる。現代の私たちが鏡の前で自分の肌に触れる。そしてアートフェアで、これまで知らなかった作品の前に立ち止まる。そこで行われているのは、すでに知っている「美」を確認することだけではない。これまで見えていなかった何かを見つけること。そして、自分自身の見方が変わる可能性に出会うことなのかもしれない。

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