バンコクの美術館・ギャラリー20選──新たな美術館の開館が相次ぐ東南アジアの次世代ハブ

観光都市として知られるバンコクのアートシーンは、近年急速に成長している。ビエンナーレの定着に加え、2024年以降は大型アートスペースのオープンが相次ぎ、アーティストたちのインディペンデントな活動も目覚ましい。バンコクを代表する20の美術館やギャラリーを通じて、変わりゆくアートシーンを知ろう。

Photo: Connor Williams/Unsplash

「東南アジアのアートシーン」と言われたら、多くの人々がシンガポールを想起するかもしれない。しかし、そんな状況が徐々に変わりつつある。

なかでも近年急速に変化しているのがバンコクだ。2018年に始まったバンコク・アート・ビエンナーレは寺院や歴史建築を会場に回を重ね、2025年にはジェームズ・タレルの常設展示を擁する美術館、Dib Bangkokが開館。旧印刷工場を転用したBangkok Kunsthalleなど、コレクターや財団が主導する大型スペースの登場がシーンの風景を一変させている。

一方で、こうしたアートスペースが増える文化的な土台をつくったのは、アーティストたちのインディペンデントな活動だったとも言えるだろう。ナラーティワート通り沿いの倉庫街に集まるN22クラスターのようなアーティスト・ラン・スペースや、チャルンクルン通り周辺の旧市街に点在する独立系ギャラリーや書店など、ARTnews JAPANが選定した20の美術館、ギャラリー、アートブックストアを通じて、バンコクの変化を追いかけていこう。

1. Bangkok Art and Culture Centre(BACC)

バンコク・アートシーンの玄関口と言えるのが、パトゥムワンの交差点に立つBangkok Art and Culture Centre(BACC)だ。BACCは市民やアーティストによる長年の設立運動を経て2008年に開館した複合文化施設で、バンコク都の支援を受けて財団が運営している。館内には展示室のほか、ライブラリーやカフェ、アートショップが設けられている。国内外の現代美術を扱う企画展から映画祭、パフォーマンスまで幅広いプログラムを実施しており、バンコク・アート・ビエンナーレの主会場のひとつとしても知られている。

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2. Dib Bangkok

1980年代の倉庫を改装したDib Bangkokは、アートシーンの制度化を象徴する私設の現代美術館だ。2023年に他界したコレクター、ペット・オサタヌグラが30年かけて集めた1,000点超のコレクションを核に、息子のプラット・オサタヌグラが2025年に設立。長年ニューヨークで活動してきた手塚美和子がディレクターを務めている。ジェームズ・タレルの常設インスタレーションが象徴的だが、開館展のなかでモンティエン・ブンマーの小回顧展を組むなど、タイ現代美術史を編みなおす視点にも注目すべきだろう。

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3. Museum of Contemporary Art(MOCA Bangkok)

通信事業で財を成したブンチャイ・ベンジャロンクンが2012年に設立した私設美術館。「一枚の花崗岩から彫り出した」と言われる白い大型建築の中には、国民的画家タワン・ドゥチャニーをはじめタイの近現代絵画・彫刻が体系的に並んでいる。MOCAで展示されるアーティストたちは必ずしも現代美術の文脈で多く語られているわけではないが、若い世代の表現の土壌となる美術教育と絵画の伝統を知るにはうってつけの場所だ。

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4. Jim Thompson Art Center

タイシルクを世界に広めたアメリカ人実業家で、1967年に休暇先のマレーシアで謎の失踪を遂げたジム・トンプソン。彼がチーク造りの伝統家屋を移築して暮らした旧邸は「ジム・トンプソンの家」として公開され、バンコク有数の観光名所になっている。その隣で2003年から活動してきたのがこのアートセンターで、2021年11月に4階建ての新館へ移った。財団が受け継ぐタイと東南アジアのテキスタイルコレクションを土台に、染織の遺産と現代美術・映像を織り交ぜた企画展を開催。カデル・アティアのアジア初個展や、市内の複数会場で開かれたフェスティバル「Ghost 2568」の会場にもなるなど、国際的な企画の拠点として機能している。

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5. Bangkok Kunsthalle

2001年の火災で内部が燃えたまま放置されていた旧タイ・ワタナ・パニット印刷所を、コレクターのマリサ・チェアラヴァノンが2024年に再生した大型の非営利スペース。コンクリートの躯体を生かした空間では、国際的なアーティストの大規模インスタレーションや国内アーティストによる実験的な表現が披露される。「クンストハレ」の名のとおりコレクションをもたず企画展を中心にした運営が特徴であり、バンコクのシーンがコマーシャル・ギャラリーや公立美術館だけでなく多様化していることがわかるだろう。

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6. 100 Tonson Foundation

ルンピニー公園にほど近いトンソン通りの一軒家ギャラリーとして知られた100 Tonsonを母体に、創設者のエックアノン・パナチェットが2020年に非営利財団へと転換したスペース。年単位の長期コミッションを軸に、ひとりのアーティストと深く伴走するプログラムで知られている。近年も、2005年のヴェネチア・ビエンナーレでタイ館に参加したアラヤー・ラートチャムルンスックのアーカイブ展や、社会や歴史へ批評的にアプローチするタダー・ヘンサパクルの個展を開催してきた。

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7. Tang Contemporary Art Bangkok

1997年にバンコクで創業し、その後北京や香港へと拠点を広げた国際ギャラリー。チャオプラヤー川沿いの歴史地区タラートノーイに位置する現在のギャラリーでは、アイ・ウェイウェイの個展から中華圏・東南アジアの中堅まで、スケールの大きな展覧会がコンスタントに開かれている。

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8. Richard Koh Fine Art Bangkok

クアラルンプールで2005年に創業しシンガポールとバンコクに展開する、東南アジアの国際的ギャラリー。バンコク中心部を貫く目抜き通り、スクンビット沿いのビル9階という立地ながら、東南アジア各国の中堅作家を国境をまたいで紹介する編成をとっている点が特徴的だ。東南アジアの現代美術が国境を越えてひとつのシーンを形成しつつあることを体感できるだろう。

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9. SAC Gallery

コレクターのスパショック・アンスワンシリが2012年に設立した、バンコク最大級のコマーシャル・ギャラリー。スクンビット39の自社ビルには4フロア・1,000平米超の展示空間が広がっており、タイの中堅・ベテランから国際的なアーティストまで、美術館級のスケールで作品が展示されている。アートフェアへの出展も積極的で、タイのコマーシャル・ギャラリーの水準をグローバルレベルへ引き上げてきた存在と言える。

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10. Nova Contemporary

2016年の設立以来、東南アジアの若手・中堅アーティストをグローバル・マーケットへ送り出してきたギャラリー。旧市街バーンラックのシープラヤー通りに位置し、タイ国内にとどまらず、ミャンマーのモー・サットなど近隣国のアーティストを取り扱っていることも特徴のひとつ。アート・バーゼル香港には2019年から出展し、2023年にはフリーズ・ソウルにも参加するなど、国際的な活動にも積極的。

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11. Bangkok CityCity Gallery

2015年にアカポン・オップ・スダスナーとスパマート・パフローが設立した、バンコクにおける実験的ギャラリーの旗手。オフィス街のサトーンに位置しており、国際的に活躍するコラクリット・アルナーノンチャイの映像インスタレーションから、音楽やデザインを横断するプロジェクトまで、ジャンルの境界を超えるような企画を続けている。タイのポップカルチャーと現代美術が接続される場としても機能している。

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12. Warin Lab Contemporary

2021年に開廊した、環境と社会課題に特化した企画ギャラリー。気候変動、資源、共同体といったテーマを一貫して掲げており、展覧会ごとにアーティストと社会的文脈を丁寧に接続している。カンボジア系アメリカ人アーティスト、アニダ・ヨウ・アリのパフォーマンス作品を紹介するなど、東南アジアのアートが向き合う課題を提示してきたギャラリーだ。

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13. Adult Material

2026年6月にオープンしたばかりの、クィア・カルチャーにフォーカスした現代美術とデザインのギャラリー。創設者のオリヴィエ・チョウは、赤十字国際委員会の駐在員として人道支援に20年以上携わりながら、2019年にスイスのローザンヌで画廊フォーリン・エージェントを開いた。バンコクは2軒目のギャラリーにあたる。開廊記念のグループ展にはバンコクだけでなくベルリン、シンガポール、ニューヨークのアーティストが集まるなど、国際的な広がりを見せている。

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14. ATT 19

チャルンクルン通りのソイ30にある旧中華学校を、骨董商レック・ギャラリーの系譜を継ぐアタカンウォン家が改装した複合スペース。現代美術のギャラリーとヴィンテージショップやイベントスペースが同居し、旧市街の生活文化と現代の表現が地続きにつながっている。チャルンクルン界隈は、タイのデザイン振興機関TCDCの移転を機にクリエイティブ地区として再生したエリアであり、ATT 19はその変化を体現する場所のひとつだ。

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15. Numthong Art Space

1970〜80年代のバンコクで現代美術の拠点だったビラスリ近代美術インスティテュート(BIMA)で経験を積んだギャラリスト、ヌムトン・セータンが1997年に開いた老舗ギャラリー。現在は住宅街のアーリー地区に拠点を構え、タイ現代美術の中堅・ベテラン世代の個展を一貫して開催しつづけている。タイのアートシーンを黎明期から支えてきた存在だ。

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16. Gallery VER

ナラーティワート通り沿いの倉庫街、通称「N22」に位置するアートスペース。リクリット・ティラヴァーニャらが2000年に始めた出版プロジェクトNamdee Publishing Stationを母体に、2006年に設立された。実験的な個展からキュレーション企画まで、マーケットと距離を置いたプログラムを続けており、2025年から26年にかけては、ティラヴァーニャ自身のキュレーションによる20周年記念展「THE ABYSS IS CALLING」も開催された。周囲にはアーティスト・ラン・スペースが集まり、N22はバンコクのインディペンデント・シーンの中心地となっている。

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17. MATDOT Art Center

タイの美術雑誌『FINE ART Magazine』の編集長タワッチャイ・ソムコンが、2020年に旧市街のラーンルワン通りに開いた施設。館内にはギャラリーが2つあり、ブラックリスト・ギャラリーではタイと海外の現代美術を、マットドット・ギャラリーでは滞在中の作家に展示スペースを提供しその成果を見せる。展示企画を入れ替える頻度も高く、美術館でもギャラリーでもなく、雑誌の編集部が母体になった特異な場所だ。

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18. Kathmandu Photo Gallery

タイを代表する写真家マニット・シーワニットプーンが2006年に開いた、写真専門のギャラリー。シーロムのパンロードにある戦前の商店建築を修復した空間で、昔ながらの「写真屋」を思わせる1階には自身のプリントが並び、2階の展示室では企画展が開かれている。消費社会を批評した代表作《Pink Man》で知られる作家自身の視点から、新進の写真家の紹介と忘れられた写真家の再発掘を続けている。

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19. Spacebar Zine

ラーチャテーウィー地区の複合施設GalileOasis内にある、ZINEと独立出版の専門店。第1回バンコク・アートブックフェアと同じ2017年に始まったZINEプロジェクトを母体とし、以後も同フェアの常連として、タイやアジアのアーティストと100タイトルを超える出版物をつくってきた。メルボルン・アートブックフェアへ出展するなど国外への発信も積極的に行っている。

20. Vacilando Bookshop

旧市街ポンプラープの路地にある、写真集とアートブックの専門書店。店主のウィティット・チャンタマリットが2017年にオンラインで開業し、2021年に実店舗を開いた。国内外の写真文化を横断するセレクションに加え、フォトブッククラブや刊行イベントなどコミュニティづくりにも力を入れている。Kathmandu Photo Galleryやブックフェアとともに、バンコクにおける写真文化の盛り上がりを牽引している存在だと言えるだろう。

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