「異色のトップコレクター」フランソワ・ピノーがヴェネチアで初の常設展。1万点超からの厳選作品で来春開幕

数々のラグジュアリーブランドを傘下に持つコングロマリットの創業者で、世界有数のアートコレクターでもあるフランソワ・ピノーが、ヴェネチアに所有する美術館で常設展示を開始する。西洋美術の主流以外にも目を向け、挑戦的な現代アートを収集してきたピノーが、その意図をフランスの有力紙に明かした。

フランソワ・ピノーが所有するヴェネチアのパラッツォ・グラッシ。2017年にはダミアン・ハーストの個展が行われた(2017年4月6日撮影)。Photo: Luc Castel/Getty Images

グッチ、サンローランなどの著名ブランドを数多く擁するラグジュアリー・ブランド・コングロマリットのケリングや、投資持株会社アルテミスの創業者であるフランソワ・ピノー。世界最大級のコレクションを所有するアートコレクターとしても知られる彼は、この8月で90歳を迎えた。

そのピノーがめずらしく仏ル・モンド紙のインタビューに応じ、1万点を超える自身の所蔵品から厳選した作品で初の常設展示を行う計画を明かした。展示はヴェネチアに所有する2つの美術館の1つ、豪華な歴史的邸宅パラッツォ・グラッシで2027年3月に開幕し、54人のアーティストによる106点の主要作品が並ぶ予定だ。

2006年に現代アートの美術館としてオープンしたパラッツォ・グラッシは、ピノーが所有する他の2つの美術館、パリのブルス・ドゥ・コメルスとヴェネチアのプンタ・デラ・ドガーナ(どちらも安藤忠雄がリノベーションを手がけた)と同様、通常は企画展を行っている。

ピノーが自身の遺産についての明言は避けたため、膨大なコレクションを今後誰が引き継ぎ、管理していくかは不透明だ。ただ、常設展示は以前から温めていた構想で、その背景には、従来のような期間の決まった企画展形式では自身のコレクションの全容を十分に伝えきれないのではないかとの懸念があったという。インタビューでは次のように説明されている。

「これまでコレクション全体を貫く物語は、展覧会が開催されるたびに断片的にしか目にすることができませんでした。常設展示であれば異なる時代や世代の作品を並べ、それぞれの作品が持つ固有性を超えて、問い続けられている不変のテーマがあることを示せます」

そうした考えから、「その力強さと時の流れに耐え抜く力によって存在感を確立した」作品を恒久的に展示したいとピノーは考えている。一方で、それがコレクションの締めくくりであるとか、常設展示が最終的な結論であるとする見方についてはこう釘を刺した。

「これは決して、コレクションを固定化したり、それに対する決定的な解釈を提示したりするものではありません。私自身の、そしてキュレーターチームのアートに対する見方は、常に進化し続けています」

その話の流れでピノーは、最先端の挑戦的な現代アート作品を長年にわたって積極的に収集してきたコレクターという定評についても自身の思いを語っている。

「私のコレクションは極めて主観的なもので、直感や情熱、あるいは現代の暴力に対する怒りに突き動かされた結果であることが非常に多いのです」と彼は述べ、現代社会の「根深い不安定さ」を露わにすることのできるアート作品の表現を敏感に感じ取ってきたと付け加えた。

さらに、「(現在)に背を向け、目に見えないものを体現しようと試みる──まさに現実を超越する」ような作品もコレクションの対象としていると話す彼は、自身が貧しい農夫の息子だった頃のことを今も折に触れて思い出すのだという。

ピノーは、フランスのトップコレクターの中でも異色の存在だと言える。それは、主要な美術館で十分な評価を受けてこなかった、非西洋系や社会から疎外された環境で育ったアーティストに目を向けているからだ。それについて彼は、作品を見るときに「国籍や性別」を意識することはないと強調し、こう語っている。

「私の関心は、むしろデイヴィッド・ハモンズのように非凡で、(超自然的な存在と交信する役割を担う)シャーマンとすら言える作家たちとの出会いによって喚起されてきました。アフリカ系アメリカ人のアートシーンに光を当てることで、私たちは西洋美術の主流から一歩踏み出し、人があまり通らない道へ進もうとするようになるのです」(翻訳:石井佳子)

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