世界の文化遺産、最大の脅威は気象災害よりも「資金不足」──世界的財団の調査が警鐘
世界各地で歴史的建造物など文化遺産の保護・保存に取り組む世界的な財団が、公的資金の削減で遺産保護が危機にさらされていると、新たな報告書で警鐘を鳴らした。同財団は日本でも、古い街並みの再生や東日本大震災、能登半島地震などにおける文化財の復旧等に関わっている。

世界で文化遺産保護・保存活動を続けるアメリカの非営利団体、ワールド・モニュメント財団(WMF)が、このたび新たな調査報告書を発表した。それによると、遺産保護の最大の脅威は公的資金の不足で、その深刻さは気候変動によるリスクや保存活動における専門性の欠如などの課題を上回るという。
この調査は、WMFが来年2月に発表を予定している「2027年ワールド・モニュメント・ウォッチ」対象リストの作成に向けた候補選定の一環として実施された。ニューヨークに本部を置き、世界各地に展開する同財団は、文化遺産保護における資金不足問題に対処するため、1996年から通常2年ごとにウォッチ(監視対象)・リストを発表している。2027年のリストには、2025年の約2倍にあたる372件の候補が寄せられている状況だ。
そして372件の候補のうち、資金不足や経済発展が主要な課題として挙げられた割合は全体の65%と、2024年調査の55%から顕著に増加した。これについてWMF理事長兼CEOのベネディクト・ド・モンロールは、声明で次のように述べている。
「今年のノミネート状況は、資金、体制、専門知識が追いつかない中、文化遺産への圧力が高まっていることを示しています。ユネスコが公開した『世界の文化政策に関する報告書(UNESCO Global Report on Cultural Policies – Culture: The Missing SDG)』によると、自国の文化遺産を保護する手段を確保できている国は4カ国に1つに過ぎません。気候変動が加速する中、地域社会には『限られたリソースでより多く役割を果たす』ことが求められる一方、そうした地域を守るために必要な技能は失われつつあります。調査結果は行動を喚起するものであり、私たちの取り組みが最も必要とされる分野を見極める指針となるでしょう」
ド・モンロールはまた、気候変動や戦争といった世界的課題がより深刻化する中での文化財保護について、「特に(これまで文化遺産の保存に最も積極的に取り組んできた)欧州やアメリカの政府が、国内外で公的資金を削減したり、打ち切ったりしています。そうした状況下では、文化や文化遺産が真っ先に予算削減の対象となることが少なくありません」とアート・ニューズペーパー紙の取材に答えている。
さらに、個人や財団、企業間の国際的な連携を通じて資金調達の幅を広げることの重要性を強調し、「最も有望なモデルでは、公共部門と政府、地域社会が一丸となり、文化遺産が文化の領域にとどまらず、経済発展、気候変動、観光マネジメントなど他の重要な社会問題と関連するものであることに光が当てられています」と付け加えた。
文化遺産関連の予算削減は、短期的にはコスト抑制につながる。しかしWMFの調査によると、文化遺産は長期的な経済的強靭性と深く関わっているため、その手のコスト削減は時間の経過とともに大きな社会経済的損失を招くという。実際、ウォッチ・リストの候補を挙げた推薦人の6割以上が、持続可能な観光、都市再生、雇用創出などを通じて、文化遺産が地域経済を支える可能性を指摘している。
また、文化遺産の課題として2番目に多い35%を占めた技術的専門性の不足は、保存修復や伝統工芸の分野における次世代育成の重要性を浮き彫りにした。課題の3位(約30%)は、洪水、暴風雨、干ばつ、山火事などの異常気象で、特にサハラ以南のアフリカで影響が大きい。さらに、中東・アフリカの文化遺産については、紛争や平和構築への懸念も主要な課題とされている。
「文化遺産の保全は、単に歴史的な建造物を修復することにとどまりません。それは、世代をつなぐ物語やその土地の象徴を守り抜くことなのです」──声明でこう強調したのは、アクサ・ヒューマン・プログレス財団(*1)のクレマン・ルーセル総代表だ。
*1 同財団は、WMFとのグローバル・パートナーシップに基づくプロジェクトで、能登半島地震による被災文化遺産の修復支援活動にも基金協力や支援を行っている。
なお、ユネスコは1978年以来、現在1273カ所に上る世界遺産に対し、年間平均100万ドル(直近の為替レートで約1億5800万円)の国際支援資金を確保してきた。
WMFのウォッチ・リスト国際専門家パネルの議長を務めるブリンダ・ソマヤは、「WMFの監視対象選定プロセスを通じて、深刻な資金不足や激化する気候変動の脅威といった主要な課題が明らかになりました。それは世界の文化遺産のみならず、それらをかけがえのないものとして守り続けている地域社会にとっても重大なリスクとなっています」と述べ、こう続けた。
「こうした場所の多くは、そこにゆかりのある地域社会の記憶や強靭性、そしてアイデンティティを内包しています。したがって、その保護は単なる場所の保全にとどまらず、そうした場所の重要性を将来にわたって維持し続けるために、思慮深い提言、専門的な知見やリソース、そしてパートナーシップが求められます」(翻訳:石井佳子)
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