マムダニ政権が芸術助成金の上限を倍増。生活費高騰に苦しむアーティストの流出に歯止めを
ニューヨーク市は、アーティストや小規模な非営利団体を対象とする助成金の上限を、5000ドル(約79万円)から1万ドル(約158万円)に引き上げると発表した。生活費の高騰によってアーティストが暮らしにくくなるなか、文化芸術への支援を拡充する。

10月2日、ニューヨーク市はアーティストや小規模な非営利団体に交付する助成金の上限を、従来の5000ドル(約79万円)から1万ドル(約158万円)に引き上げると発表した。上限額が引き上げられるのは、およそ20年ぶりとなる。
ニューヨーク市文化局(DCLA)の予算を財源とするこの助成金は、市内5区の芸術評議会などを通じて交付される。各区の団体は公募によって助成対象を選び、アーティストやコレクティブ、小規模な非営利団体に資金を提供している。DCLAから5団体に配分される助成金の総額は、約350万ドル(約5億5370万円)にのぼる。今回の発表に際し、ニューヨーク市長のゾーラン・マムダニは次のような声明を発表した。
「アーティストもほかのニューヨーク市民と同じように働き、生活費を負担しています。しかし、この街では家賃や食料品、子育ての費用が急騰しているにもかかわらず、アーティストが頼りにしてきた助成金の額は変わっていません。助成金の倍増は、この街に活気をもたらす画家や音楽家、映画制作者などのアーティストが、ニューヨークに住み続けられるようにするための重要な一歩です」
実際、ニューヨーク市内ではアーティストの減少が進んでいる。シンクタンクのセンター・フォー・アン・アーバン・フューチャー(CUF)の調査によると、市内在住のアーティストの数は2019年以降4.4%減少し、数十年ぶりに減少傾向に転じたという。
こうしたなか、DCLAの局長を務めるディヤ・ヴィジはUS版ARTnewsの取材に対し、キュレーターとして多くのアーティストと接するなかで、5000ドルの助成金では制作費を十分に賄えず、時間をかけて制作に取り組むための経済的な余裕も得られないと感じていたと語った。「助成金を受け取ったにもかかわらず、プロジェクトを完成させるためにアーティストが借金を抱えてしまう。そんな事態だけは避けたいのです」
今回の発表には、もうひとつ支援策が含まれている。DCLAが運営する資材提供プログラム「マテリアルズ・フォー・ジ・アーツ(MFTA)」では、芸術評議会から助成を受けているアーティストを対象に、寄付された資材を無償で提供する「ショッピングデー」を新設する。対象者は事前予約のうえ、約3250平方メートルの倉庫から必要な資材を持ち帰ることが可能だ。MFTAには毎年およそ1800トンの資材が寄付されており、これまでも文化プログラムを実施する非営利団体や公立学校、市の機関に無償で提供されてきた。
DCLAは、アメリカの自治体で最大規模の芸術文化への資金提供機関として知られる。7月に成立した2027会計年度の市予算では、同局に過去最高となる3億2380万ドル(現在の為替で約512億円)が割り当てられた。2026会計年度の2億9960万ドル(同約473億円)から約8%の増額だ。2027会計年度の予算には、非営利団体の活動を支援するため、年間1000万ドル(約16億円)を3年間にわたって拠出する「文化安定基金」も盛り込まれた。
DCLAの文化政策はこれまで、芸術文化を公共財として市民に届ける非営利団体への支援を中心としてきた。就任以来、市内5区で約15回にわたってアーティストとの対話の場を設け、数千人の声を直接聞いてきたヴィジは、その方針を維持しつつ、個人アーティストへの支援も拡充していく考えだ。今回の助成プログラムは、DCLAが個人アーティストを対象に資金を提供する唯一の仕組みであり、ヴィジは充実した文化政策を実現するうえで欠かせないものだと強調する。美術館やギャラリー、ダンスや音楽の会場で作品が発表されるまでには、アーティストによるさまざまな試行錯誤や協働の過程があり、そうした活動にも支援が必要だという。
今回の助成金の引き上げは、連邦政府による芸術文化への助成削減が多くの団体に打撃を与えるなかで行われた。ヴィジは、アーティストへの助成と文化安定基金について、連邦政府の資金削減だけでなく、不動産問題や立ち退きにも直面する現場のニーズに応えるものだと説明。そのうえで、全米芸術基金(NEA)の助成が小規模な団体にとってきわめて重要な役割を果たしていると強調する。全米人文科学基金(NEH)や博物館・図書館サービス機構(IMLS)などによる助成も削減されていると指摘し、次のように語った。
「これらをすべて合わせると、膨大な資金が失われることになり、その穴を埋めることはできません。民間からの寄付や自治体の予算を活用して、できる限りのことはするつもりです。しかし、連邦政府による資金提供と同じ規模の支援を実現することはできないのです」
(翻訳:編集部)
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