海外観光客も引き続き無料に──英政府、大英博物館やテートなどの入館料導入案を撤回

イギリス政府は、大英博物館やテートなどの国立博物館・美術館で、海外観光客から入館料を徴収する案を撤回した。背景には、博物館側からの反対や、無料公開を維持すべきだとの声があった。

ヴィクトリア&アルバート博物館の外観。Photo: Mike Kemp/In Pictures via Getty Images
ヴィクトリア&アルバート博物館の外観。Photo: Mike Kemp/In Pictures via Getty Images

イギリス政府は9月28日、大英博物館やテート、リバプール国立博物館群など、イングランドの国立博物館・美術館で海外観光客から入館料を徴収する案を撤回すると発表した。デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)を率いるリサ・ナンディは、その理由についてこう語る。

「我が国のミュージアムは、世界に光をもたらす存在です。共通の歴史を思い起こさせ、日常を離れてより広い世界へと私たちを連れ出してくれます。何ものにも代えがたい魅力があるからこそ、こうした施設はこれからも、すべての人に無料で開かれていなければなりません」

今回の決定までには、政府とミュージアム側の間で数カ月にわたる協議が重ねられてきた。コストの上昇と公的助成の実質的な目減りに直面する各館にとって、観光客からの入館料が新たな収入源になり得るのか、また、有料化する場合はどのような仕組みで運用するのかが主な論点となっていた。

入館料をめぐる議論が再燃したのは今年3月だ。労働党の貴族院議員マーガレット・ホッジは昨年12月、アーツカウンシル・イングランド(ACE)の今後のあり方について提言をまとめていた。これに対してDCMSが今年3月に示した回答では、観光客から入館料を徴収する案も取り上げられた。政府は、有料化によって各館の「長期的な財務基盤」が強化され、文化がより「国民全体を映し出し、国全体で共有される」ものになるとして、「大きな利点をもたらし得る」との見方を示していた。

だが、ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)や自然史博物館を含む15館は、観光客に入館料を課すことに警鐘を鳴らしてきた。理由として挙げたのは、もともとイギリスへの旅行費用が比較的高いこと、国立館が所蔵する美術品や文物の多くが世界各地に由来すること、そして身分証明制度の整備が進んでいない現状では、来館者を居住者と非居住者に分けることが難しい点だ。

国立博物館館長会議(NMDC)の議長を務めるローラ・パイもナンディの発表を歓迎し、「大変うれしく思います」と述べたうえで、次のような声明を発表した。

「これにより、私たちのコレクションは誰もが利用できるものであり続け、国立ミュージアムはイギリス全土、そして世界中から来館者を呼び込み続けることができます。それが観光を支え、私たちの街や地域社会に恩恵をもたらすのです」

一方、DCMSは有料化した場合の影響も試算していた。フィナンシャル・タイムズ紙は今月、試算の内容を知る関係者3人の話として、観光客から入館料を徴収した場合、ロンドンの大規模館の一部では増収が見込まれていたと報じた。ただし、試算では国内からの来館者も減少すると予測されていた。

施設側から反対の声が上がる一方、海外からの来館者への入館料導入を支持する意見もあった。2024年に大英博物館の暫定館長を退任したマーク・ジョーンズは、同年7月、観光客を対象に20ポンド(約4000円)の入館料を導入すべきだと提言している。同館では来館者の大半を海外からの旅行者が占める。ジョーンズは「政府からの資金が限られている時期に、観光客から入館料を取ることを検討するのはいいことだ」と述べ、それによってミュージアムは活動を拡大できると主張した。

海外観光客の有料化を見送ったことで、今後、財源をどう確保するかという課題は残る。政府は今月初め、イングランド各地の広域自治体の首長に「観光税」を導入する権限を与える方針を決めた。一部の文化関係者はこの方針を歓迎する一方、税収は芸術・文化の支援に充てるべきだと訴えている。

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