小学生が1000年前の戦争絵巻に未来をつなぐ──《バイユーのタペストリー》題材に創作コンペ

約1000年ぶりにイギリスへ戻った《バイユーのタペストリー》。現存する作品には描かれていない物語の「その後」を、子どもたちが自由に構想する創作コンペティションが開催される。テーマは、征服や戦争を超えた「より良い未来」だ。

《バイユーのタペストリー》より、イギリスに帰還するハロルド2世。Photo: Art Images via Getty Images
《バイユーのタペストリー》より、イギリスに帰還するハロルド2世。Photo: Art Images via Getty Images

およそ1000年ぶりにイギリスへ里帰りしている《バイユーのタペストリー》にちなみ、イギリス全土の小学生を対象にした創作コンペティション「Beyond the Battle」が開催される。主催するのは、イギリス全土で400以上の史跡を管理する慈善団体イングリッシュ・ヘリテージと、ロンドンとパリに拠点を置く国際財団、アート・エクスプローラーだ。

《バイユーのタペストリー》は、1066年のヘイスティングズの戦いとノルマン征服をめぐる一連の出来事を描いた、全長およそ70メートルの刺繍作品。イングランドのケント地方で制作されたと考えられており、イングランド王ウィリアム1世(1028頃-1087)の異母兄弟にあたるバイユー司教オドが制作を依頼し、フランスへ運ばせたと伝えられている。1064年から1066年までの出来事をたどり、ヘイスティングズの戦いでハロルド2世が敗北した後、ウィリアム1世はイングランド初のノルマン系国王として即位した。

ただし、現存する作品はハロルド2世の死を描いた場面で唐突に終わっており、その結末をめぐっては長年議論が続いてきた。一部の研究者は、本来はさらに3メートルほど続き、1066年のクリスマスに行われたウィリアム1世の戴冠式まで描かれていたと見ている。

「Beyond the Battle」は、失われた「その後」を手がかりに、征服や戦争の先にある未来を子どもたち自身が新たに構想する試みだ。対象は7歳から11歳で、クラス単位で参加する。征服や戦争ではなく「より良い未来」を主題にした染織作品を制作する。主催者によると、各クラスは、理想とする未来の情景と、それを実現するために必要な人々の行動や価値観を表現し、構想からデザイン、制作まで自分たちの手で仕上げるという。

参加校には、刺繍作家で教育者のジェシカ・グレイディが手がけた学習教材が無料で配布される。廃材やリサイクル素材を活用し、特別な道具がなくても取り組める技法を紹介するほか、対象学年の歴史・美術科カリキュラムに沿った授業案や、初心者向けの刺繍技法を学ぶための指導内容も盛り込んでいる。さらに、タペストリーの歴史や主題について学びながら、新たな場面を共同で考えるための創作活動も用意されている。

また、イングリッシュ・ヘリテージが提供する「1066年とノルマン征服」にまつわる学習資料も併せて活用することが可能だ。主催者側は、歴史への理解を深め、創造力や共同作業を通じて学ぶ力を育むとともに、教員が染織を授業に取り入れやすくすることも狙いとしている。

優勝したクラスは、大英博物館で《バイユーのタペストリー》を鑑賞し、ヘイスティングズの戦場跡、またはイングリッシュ・ヘリテージが管理する別のノルマン期の史跡を訪れる見学旅行に招待されるという。次点のクラスには、最寄りのノルマン期の史跡を訪れる費用が用意される。また、優勝作品は特別展示で紹介されるほか、優勝校にはグレイディが制作したオリジナルの刺繍作品が記念品として贈呈される予定だ。

《バイユーのタペストリー》は2026年7月、振動による損傷を防ぐよう特別に設計された保護ケースに納められ、警察の護衛を受けてイギリスに到着した。所蔵元であるフランス・ノルマンディー地方のバイユー・タペストリー美術館が改修のため休館している間、大英博物館で同年9月10日から2027年7月11日まで展示される。

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