2026年マッカーサー「天才賞」が発表。アート分野からは4人選出、それぞれに約1億2600万円
芸術や文化、教育、社会、経済などの分野で活躍する人物を対象としたアメリカ最大級のフェローシップ、マッカーサー財団「天才賞(Genius Grant)」の2026年受賞者20人が発表された。アート部門からの選出は4人。
ジョン・D&キャサリン・T・マッカーサー財団(John D. and Catherine T. MacArthur Foundation)は、芸術や科学、人文・社会科学など、幅広い分野で優れた創造性を発揮する人物を支援するマッカーサー・フェローシップの2026年の受賞者20人を発表した。通称「天才賞(Genius Grant)」として知られるこの制度では、受賞者それぞれに、使途の制限がない総額80万ドル(約1億2600万円)の助成金が5年間にわたって授与される。
美術分野からは、ベルリンを拠点とするクリスティーン・サン・キム(Christine Sun Kim)、ロサンゼルスのロドニー・マクミリアン(Rodney McMillian)、ヒューストンとサンアントニオのヴィンセント・ヴァルデス(Vincent Valdez)、アリゾナ州フラッグスタッフのチップ・トーマス(Chip Thomas)の4人が選ばれた。
受賞者の年齢に制限はない。過去10年間には、マリア・マグダレーナ・カンポス=ポンス(María Magdalena Campos-Pons)、キャロリン・ラザード(Carolyn Lazard)、トニー・コークス(Tony Cokes)、ウェンディ・レッドスター(Wendy Red Star)、ジェフリー・ギブソン(Jeffrey Gibson)らも受賞している。同制度は、実績を評価するだけでなく、受賞者が今後さらに創造的な活動を展開できるよう支援することを目的としている。
キムは、2025年にホイットニー美術館で個展「Christine Sun Kim: All Day All Night」が開催された。美術館などの機関や観客に、自らのエイブリズム(障害者への差別や偏見)、とりわけろう者に対する態度を問い直すよう促す作品で知られる。代表的なシリーズの1つが、木炭とオイルパステルによるドローイング「Degrees of Deaf Rage」(2018)だ。聞こえる人を中心とした社会で、ろう者の経験や生活の実情が顧みられない場面を、ユーモアと鋭い皮肉を交えて描いている。2020年には、スーパーボウルでアメリカ国歌をアメリカ手話で表現し、強い印象を残した。今回の受賞発表動画でも手話で自己紹介し、「私は、音と聞くことの文化的な側面に光を当てるアーティストです」と述べている。
マクミリアンは、絵画、彫刻、映像、パフォーマンス、インスタレーションなど、さまざまな表現手法を用いて制作する。財団のウェブサイトによると、その作品は、歴史や社会経済的な状況、公共政策が人々の生活の質をどう左右するのかを探るものだ。特に、アメリカ南部に暮らす黒人が経済的に周縁化され続ける構造に目を向けている。代表作には、全長約26.8メートルの抽象絵画《In This Land》(2019)や、ミシシッピ州のドッカリー農園(Dockery Plantation)にかつてあった礼拝堂に着想を得た、大規模なインスタレーション《From Asterisks in Dockery》(2012)などがある。
主に絵画を手がけるヴァルデスは、歴史と現在の双方に目を向け、現代の切迫した課題を考察する。特に、アメリカで暮らすラティンクス(中南米系の人々)の経験を通して根強い人種差別に焦点を当てている。その作風は、感情や動きを強調した描写から、極めて写実的な表現まで幅広い。《Kill the Pachuco Bastard!》(2001)は、ズートスーツ暴動(1943年6月、ロサンゼルスで白人の水兵や兵士らが、主にメキシコ系アメリカ人の若者を襲った人種差別的な暴力事件)を題材に、激しい暴力の場面を描いた作品だ。一方、《The Beginning is Near, An American Trilogy, Ch. 1: The City》(2016)は、頭巾をかぶったクー・クラックス・クラン(KKK、白人至上主義団体)のメンバーを描いた、全長約9.1メートルの絵画。2024〜25年には、その幅広い活動を紹介する巡回展が開催された。
トーマスは、地域社会の歴史や現在の暮らしに根差したパブリックアートを制作する。財団はその活動を、見過ごされ、放置されてきた空間を力強いアートの場へと変えるものと評している。主な活動の舞台は、先住民族ナバホの自治地域、ナバホ・ネーション(Navajo Nation)だ。使われなくなった建物などに大型の写真を設置するほか、グラフィティ・アーティストを招いて現地で新作を制作する「ペインテッド・デザート・プロジェクト(Painted Desert Project)」を立ち上げた。
このほか、アメリカ先住民族のオグララ・ラコタに属する詩人、レイリ・ロング・ソルジャー(Layli Long Soldier)も今年の受賞者に名を連ねる。彼女の作品は、ジェフリー・ギブソンをはじめ、世代を超えて先住民族のアーティストたちに影響を与えてきた。ギブソンが2024年のヴェネチア・ビエンナーレのアメリカ館で発表した展覧会「the space in which to place me」のタイトルも、ロング・ソルジャーの2017年のコンクリート・ポエトリー(形態や視覚的配置を重視した詩の形式)《Ȟe Sápa》から引用したものだ。
同財団で広報、マッカーサー・フェローシップ、パートナーシップを担当するクリステン・マック(Kristen Mack)は、声明で次のように述べた。
「45年にわたり、マッカーサー・フェローたちは常識を問い、分野を横断し、社会全体の進歩を後押しすることで、さまざまな境界を越えてきました。2026年の受賞者たちも、その創造的な伝統を受け継いでいます。人間性の奥深くを探り、現代の課題の知られざる起源を明らかにし、科学的探究や命を救う研究の可能性を広げています。彼らは、世界を理解する新たな方法を私たちに示してくれるのです」(翻訳:編集部)
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