美術館による展覧会の約半数は4%のトップ作家。UBSの新リポートが明らかにする、米国のアート界

スイスの金融機関UBSが、米国のアート市場に関する調査リポートを発表。米国の美術館が開催する展覧会には有名アーティストへの偏りがあることが明らかになった。

2021年5月1日、ホイットニー美術館(ニューヨーク)でパフォーマンスを行うデイブ・マッケンジー Lev Radin

5月末、「The Role of Cities in the US Art Ecosystem(米国のアート業界における都市の役割)」がUBSから発表された。執筆者は、アーツ・エコノミクス社の創業者で、著名な文化経済学者のクレア・マッキャンドルー博士。博士は、カナダの調査会社Wondeur AI(ワンダー AI)の協力を得てリポートをまとめている。

このリポートでは、2017〜21年に米国の4150の美術館・ギャラリーで実施された展覧会の中で、1900年以降に生まれたアーティストを取り上げたものを対象に調査を行なっている。その結果、美術館の展覧会の約半数が、アーティスト25万人のうちほんの一握りの有名作家で占められていることが分かった。

Wondeur AIは、展覧会の開催回数や展覧会が行われた施設の知名度を基準に、25万人のアーティストを「スターアーティスト」「中堅アーティスト」「新進アーティスト」に分類している。その内訳は、「スターアーティスト」が全体の4%、「中堅アーティスト」が12%、「新進アーティスト」は84%だった。

調査結果では、2017〜21年に開催された美術館の展覧会の47パーセントが、4%の「スターアーティスト」に集中。「中堅アーティスト」による展覧会は36%、「新進アーティスト」は17%となっている。

都市別に見ると、シカゴとロサンゼルスの美術館は「新進アーティスト」による展覧会の割合が他の都市より多く、「スターアーティスト」の展覧会の割合が最も多いのはニューヨークの美術館だった。

同リポートでは、「リスク志向スコア」による評価も行われているが、このスコアが高いのはニューヨークとロサンゼルスの美術館だった。つまり、この2都市の美術館は、他の都市よりも積極的に、実績の少ない新進アーティストを取り上げているということになる。

一方、ギャラリーは、美術館に比べ「スターアーティスト」への集中度は低い。この傾向は、大手ギャラリーであっても変わらない。調査結果では、ギャラリーの展覧会のうち「スターアーティスト」によるものは23%、「中堅アーティスト」は41%「新進アーティスト」は36%だった。

マッキャンドリュー博士は声明の中で、このリポートが示唆しているのは、米国の美術館はギャラリーに比べ展覧会企画に安全策を取りがちという点だと述べ、次のように評している。「アーティストの過去の展示履歴・実績を重視するような、保守的なやり方で展覧会のリスクヘッジをする傾向がある」(翻訳:石井佳子)

同リポートの都市ごとの調査結果についての記事はこちら

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月7日に掲載されました。元記事はこちら

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