#ジョン・ケージ/John Cage
1912年アメリカ・ロサンゼルス生まれ。1930年代から前衛的な作曲家として活躍した。演奏者が舞台上で楽譜をめくるのみの作品《4分33秒》の作曲者、また、グランドピアノの弦にさまざまな物をはさんで音を変える「プリペアド・ピアノ」の考案者として知られる。
略歴
作曲をヘンリー・カウエルとアルノルト・シェーンベルクに学ぶ。初期には音列的な手法を用いたが、その後実験的な手法に傾倒するようになり、1939年には、「プリペアド・ピアノ」を考案。この作品は、グランドピアノに張られている弦と弦の間にゴムやネジ、ボルトなどを挟んで音色を変化させるもの。弦のどのあたりに、どのような素材を挟むかで音色が異なる。ピアニストが、楽器の音色を自ら「作る」ということ、ネジやゴムといった日用品を使った点が評価されており、芸術と日常を、特別に隔たったものにしないというケージの姿勢がみられる。
戦後に入ると、彼は東洋思想から大きな影響を受け、個人の「表現」であるような音楽から脱しようと試みることになる。人間の感情を表すものとして曲を作るのではなく、ただ音そのものが鳴れば十分に音楽になり得る、というのがケージの思想の核心で、彼の音楽は、ルネサンス以来の「自己表現による音楽」に疑間を投げかけ、音楽のあり方そのものを変革しようとするものだった。
作品
1951年には、《易の音楽》を発表。これは、3枚のコインをトスし、音の要素が配置された8x8のチャート(中国の八卦に由来する)からひとつのマスを選び取ることによって作曲された作品である。このような作曲手法は、「偶然性の音楽」(チャンス・オペレーション)と呼ばれている。1952年、演奏者が舞台上で楽譜をめくるのみの作品《4分33秒》を発表。この作品は、現代音楽界のみならず、アート界にも影響を多大な与え続けている。
また、この時期以降ケージは、さまざまな図形や線によって構成された「図形楽譜」を使用しはじめる。図形楽譜をどう読むかは演奏者の判断に任され、音響結果は演奏者によって変化することになる。日本文化にも関心を持ち、禅などの東洋思想に影響を受けたほか、雅楽に使われる笙のための作品も書いている。
アートとの関わり
ジョージ・マチューナスを中心にして興ったフルクサス運動に参加したほか、マルセル・デュシャンに影響を受け、《マルセル・デュシャンのための音楽》という曲を作曲している。また、バウハウスで教鞭をとっていたヨゼフ・アルバースがノースカロライナ州に開校したブラック・マウンテン・カレッジに招かれ、多くのアーティストを育てたほか、同じく教師であったバックミンスター・フラーや、生徒のロバート・ラウシェンバーグと交友を持つ。ラウシェンバーグはケージと《Automobile Tire Print》(1953年)などの作品を共同制作したほか、最初のハプニング作品ともいわれるケージの《シアター・ピース No.1》(1952年)に参加している。