ショーン・”ジェイ・Z”・カーター(Shawn “Jay-Z” Carter)
拠点:アメリカ・ニューヨーク州イーストハンプトン、ロサンゼルス
職業:起業家
収集分野:現代アート
アーティストのアレックス・イスラエルが、2017年に制作した奇妙な映像がある。そこに映し出されるのは、明るい陽光がさんさんと降り注ぐ中、エリという名のチンパンジーが浅いプールの縁を横切っていく姿だ。舞台となっている洗練された外観の建物は、ミニマリズム建築で知られる安藤忠雄の設計によるもので、TOP 200 COLLECTORSの重鎮的存在であるマリア・アリーナ・ベルとウィリアム・ベルJr.夫妻が所有していた。イスラエルが撮影に使った6年後、この物件は別のセレブカップルに売却されることになる。TMZ誌が報じたところによると、ラッパーのジェイ・Zことショーン・カーターと妻のビヨンセ・ノウルズが買ったこの邸宅は、当時カリフォルニアにおける住宅取引の史上最高額を記録し、頭金は2億ドル(約292億円)にのぼったという。
しかし、ベル夫妻の家を引き継ぐ以前から、ジェイ・Zが意欲的なアートコレクターであることはたびたび報じられていた。2008年、ジェイ・ZはBBCとのインタビューで、ダミアン・ハーストが彼の歌詞にインスパイアされた絵を描いたこと、そして後にその作品を購入したことを明かしている。また英デイリー・ミラー紙も、ジェイ・Zはハーストの別の作品も所有していると伝えた。2010年には米ローリング・ストーン誌が、彼がローリー・シモンズの写真作品を購入したことを取り上げている。それはピストルと女性の脚を組み合わせた構図で、同誌によると、ジェイ・Zがこの写真をトライベッカのペントハウスのアパートに飾ったところ、ビヨンセはその写真が気に入らず、別の作品と入れ替えてしまった。2012年にはアート・バーゼル・マイアミ・ビーチで目撃され、ジェイ・Zがヘブル・ブラントリーの絵を2万ドル(約290万円)で購入したとハフポストに報じられた。その5年後にも、2人はニューヨークのフォート・ガンズボート・ギャラリーで開催されたセイディ・バーネットの個展に、連れ立って訪れたところをキャッチされている。
ジェイ・Zの音楽に多少親しんでいるのであれば、ジェフ・クーンズの《バルーンドッグ》からレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》まで、アートに関連する言葉が歌詞にちりばめられているのを知っているだろう。2013年にはニューヨークのペース・ギャラリーで、「ピカソ・ベイビー」を6時間ぶっ続けでパフォーマンスしたエピソードも有名だ。その場には、キュレーターのクラウス・ビーゼンバッハ、アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチ、美術評論家のジェリー・サルツらの有名人が顔を揃えていた。
2021年、ビヨンセとジェイ・Zはティファニーの広告キャンペーンに登場。2人はジャン=ミシェル・バスキアの絵の前でポーズを取っているが、個人所有されていたこのバスキア作品は、長い間一般の目に触れることがなかったものだ。さらに同じ年、ジェイ・Zは画家のデリック・アダムスに、サザビーズのセールに出すジェイ・ZのNFT肖像画制作を依頼。サザビーズの話では、リアルの(物理的な)アダムスの絵は、ジェイ・Zが所有しているという。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2024年版トップ200コレクターズが発表された2024年10月時点の為替レートによる。