英海軍の名将ネルソン提督の遺品が競売へ。私生活と軍歴を伝える415点、最高予想価格は12億円超

イギリスの国民的英雄として知られるホレーショ・ネルソンの私生活と軍歴を伝える資料415点が、サザビーズで競売にかけられる。愛人への手紙や主要な海戦に関する記録などが含まれ、最高予想落札価格は600万ポンド(約12億5000万円)に上る。

サザビーズで競売にかけられるイギリス海軍の提督、ホレーショ・ネルソンに関連する手紙や文書、原稿など415点のうちの1点。最高予想落札価格は600万ポンド(約12億5000万円)。Photo: Courtesy of Sotheby's
サザビーズで競売にかけられるイギリス海軍の提督、ホレーショ・ネルソンに関連する手紙や文書、原稿など415点のうちの1点。最高予想落札価格は600万ポンド(約12億5000万円)。Photo: Courtesy of Sotheby's

サザビーズは、ナポレオン戦争などで活躍したイギリス海軍の提督、ホレーショ・ネルソンに関連する手紙や文書、原稿など計415点を出品する。資料は単一ロットとして封印入札方式で販売され、最高予想落札価格は600万ポンド(約12億5000万円)。愛人のエマ・ハミルトンに宛てた手紙のほか、1797年のサンタ・クルス・デ・テネリフェの海戦で右腕を失ったネルソンが、左手で字を書くために試行錯誤した跡が残る資料なども含まれている。

入札はトラファルガー海戦の記念日にあたる10月21日にオンラインで開始され、11月18日まで行われる。オークションの開始に合わせ、主要な出品物はサザビーズのロンドン拠点で1週間にわたり展示される予定だ。

書簡が伝える国民的英雄の素顔

昨夏、サザビーズ・パリでは、ナポレオンの熱心な収集家として知られるピエール=ジャン・シャランソンのコレクション112ロットが競売にかけられた。二角帽子や1804年の戴冠式で使われた儀礼用の剣、個人の印章、遠征用のベッド、実際に着用した靴下などが出品され、総落札額は870万ユーロ(約15億4000万円)に上った。今回サザビーズは、1805年のトラファルガー海戦でナポレオンのイギリス侵攻計画を阻んだネルソンの資料を通じて、再び同じ時代に焦点を当てる。

このアーカイブは、2021年に亡くなったイギリスのコレクター、クライブ・リチャーズが収集したもので、個人所有のネルソン関連資料としては最大規模とされる。コレクションには168通の手紙をはじめ、家族に関する記録、戦闘記録や海軍の日誌、さらにネルソンとエマ・ハミルトンが所有していた書籍など、多岐にわたる資料が含まれている。

サザビーズの書籍・原稿の専門家であるガブリエル・ヒートンは、資料を単一ロットとして出品する理由について、個々の品だけでなく、アーカイブ全体に大きな価値があると説明する。コレクションを一つのまとまりとして捉えることで「その魅力はさらに際立つ」とUS版ARTnewsに語った。

これらの資料は、戦場を離れたネルソンの私的な一面も伝えている。国民的英雄として知られる人物の素顔や人間関係、さらに戦いで負った傷がその後の生活に与えた影響をうかがうことができる。ヒートンはこう付け加えた。

「このコレクションから見えてくるのは、自らの立場の重要性を強く意識していた一人の男の姿です。感情を隠そうとせず、『兄弟たち(Band of Brothers)』と呼んだ配下の艦長たちをどれほど大切にしていたかも、はっきりと伝わってきます。さらには、手紙を通じてハミルトンとの大恋愛が展開していく様子も、間近でたどることができるのです」

愛人のハミルトンに宛てられた手紙は、ネルソンの資料のなかでも、彼の私生活をとりわけ鮮明に伝えている。二人の関係は、ネルソンがフランシス・ニスベットと、ハミルトンが駐ナポリ英国大使のウィリアム・ハミルトン卿とそれぞれ結婚していた時期に始まり、やがてネルソン、エマ、ウィリアムの3人がともに生活するようになった。こうした書簡からは、軍人としての公的な姿とは異なるネルソンの一面をうかがうことができる。

40年かけて集めたネルソンの記録

一方、書簡や日誌、戦闘記録には、ネルソンがイギリス海軍で経験した数々の軍事作戦も記録されている。ナイルの海戦やコペンハーゲンの海戦など、彼を英雄へと押し上げた戦いに関する資料も残されている。ヒートンはこう説明する。

「彼自身の筆によって、私たちはそのキャリアの全貌をたどることができます。このコレクションからは、イギリス史上でも特に魅力的な人物の一人について、驚くほど豊かで複雑な人物像が浮かび上がってくるのです」

リチャーズがネルソンの資料を収集するようになった背景には、イギリス史への強い関心があった。ネルソンだけでなく、同国の近代化に大きな足跡を残した技術者イザムバード・キングダム・ブルネルなどにも関心を寄せていたという。リチャーズの妻シルビアは、こう語る。

「事業で成功を収めたことで、彼は約40年間にわたり、ネルソンにまつわる最も重要かつ希少な手紙を探し出し、購入することができました。クライブは、そうした資料が将来にわたって大切に保存されることを望んでいたのです」

リチャーズは、自身を資料の所有者というより、一時的に預かる立場だと考えていたという。シルビアは、「彼が集めた資料は、歴史家たちと共有され、研究されるべきだと心から信じていた」と振り返る。また、自身の死後には手紙を売却し、その収益をシルビアとともに設立した慈善団体「クライブ・リチャーズ財団」に寄付することを望んでいた。同財団は教育、医療、文化遺産、芸術の分野を支援している。

歴史的価値の高い資料としては、ナイルの海戦やコペンハーゲンの海戦に関するネルソン直筆の報告書や、トラファルガー海戦の作戦計画書などがある。歴史家のドミニク・サンドブルックは、これらを「我が国の歴史において最も神聖な文書に匹敵する」と評している。

一方、このアーカイブからは、ネルソンの華々しい軍歴の代償も浮かび上がる。片目の視力を失った後や、右腕を切断した後に書かれた手紙には、負傷の影響が文字そのものに残されている。ある手紙でネルソンは、自分には「流暢に字を書ける手はない」と記している。こうした筆跡は、英雄としての名声の陰で彼が負った肉体的な犠牲を直接伝えるものでもある。

歴史資料の一括売却に高まる需要

ヒートンによれば、今回の一括売却は、著名人の個別の書簡だけを集めるのではなく、まとまりのある大規模な歴史資料を求める需要を反映しているという。サザビーズはこれまでも、イギリス文学に関する写本や稀覯本を集めた私蔵コレクション「ホンレスフィールド・ライブラリー」などを扱ってきた。今回も、価値の高い手紙だけを個別に出品するのではなく、ネルソンのアーカイブ全体を一つのまとまりとして引き継ぐ買い手を求めている。

このアーカイブがイギリス国内に留まるかどうかも注目される点だ。ヒートンはリチャーズを「誇り高きイギリス人」と評し、コレクションが国内に留まることを望んでいただろうとみている。一方で、世界各地のコレクターや機関にも、この資料を適切に保存できる場所があることを理解していたと付け加えている。

過去にも、ネルソンに関連した品はオークションで高額落札されてきた。2002年にサザビーズで開かれたオークションでは、アレクサンダー・デイヴィソン・コレクションから出品された93ロットが総額184万ポンド(現在の為替で約3億8400万円)を売り上げた。そのなかでは、オスマン帝国の皇帝セリム3世からネルソンに贈られた剣が30万ポンド(同約6260万円)、トラファルガー海戦で致命傷を負った際にポケットに入っていたとされる血染めの財布が24万ポンド(同約5010万円)で落札されている。さらに2024年には、クリスティーズでトラファルガー海戦の戦闘序列書が、最高予想落札価格2万ポンド(同約420万円)を上回る3万2760ポンド(同約680万円)で落札された。(翻訳:編集部)

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