フリーズ・ロンドン&マスターズが開幕。ハウザー&ワースは初日に17億円超を売り上げ
10月18日まで開催中のフリーズ・ロンドンとフリーズ・マスターズのVIPプレビューが14日に行われた。ハウザー&ワースは20点超を販売し、売り上げは約17億4000万円に到達。出品作の大半が売れたギャラリーも相次ぐなど、好調な滑り出しを見せた初日の売れ行きを紹介する。

フリーズ・ロンドンの開幕前、リージェンツ・パークの会場入口でセレブリティの姿を探すのも楽しみの1つだ。VIPプレビューが行われた10月14日、会場の扉が開くと、アカデミー賞ノミネート俳優のアンドリュー・ガーフィールドが交際相手で俳優のモニカ・バルバロとともに、ゆったりと入場してきた。ティルダ・スウィントン、ビアンカ・ジャガー、ロンドンを拠点とするデザイナーのディラーラ・フィンディコグルーも姿を見せた。
そしてベルギーを拠点とするデザイナーで、プラダの共同クリエイティブ・ディレクターであり、長年のアートコレクターでもあるラフ・シモンズも登場した。シモンズは、US版ARTnewsに対して「ロンドンの全てが好きです。特に、ロンドンの人たちが」と語った。
「ロンドンかパリか」論争は過去のもの
前日の13日夜には、ロンドンのタデウス・ロパックでゲオルク・バゼリッツ展のオープニングが開かれた。人混みの中では、俳優のダミアン・ルイスが大きな絵画をじっくりと眺めていた。数ブロック先のピラール・コリアスでは、サーペンタイン・ギャラリーのアーティスティック・ディレクター、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが、ターナーに着想を得たリクリット・ティラヴァニの海景画に鋭い視線を向けていた。
翌週にアート・バーゼル・パリが開幕するため、ロンドンを訪れず、パリに直行する人もいる。それでも、今週の展覧会やイベントに著名人が集まる様子からは、ロンドンのアートシーンが依然として活気を保っていることがうかがえた。
ロンドンとパリを比較する議論は、すでに語り尽くされ、いまさら蒸し返すまでもないだろう。実際、14日のフリーズ会場でも、この話題を口にする人はほとんどいなかった。
ここでは、初日の14日終了までに売れた作品の一部を紹介する。ただし、大手ギャラリーが高額作品の成約を発表したからといって、それだけで美術市場全体の動向を判断するのは難しい。フェア全体の売り上げデータは公表されておらず、各ギャラリーの販売実績も自己申告のため、独立した検証が容易ではないからだ。
「凄まじい活気」の場内、ハウザー&ワースは17億円超え

フリーズでは、小規模なギャラリーに注目が集まるよう、入口付近にそのブースを配置し、大手ギャラリーをテントの奥に集めている。それでも、ハウザー&ワースは正午までに出品作の大半を販売した。同ギャラリーのパートナー、ゾーイ・スパーリングは、US版ARTnewsに「アメリカやアジアのコレクターが大勢来ています」と話した。
同ギャラリーはフリーズ・ロンドンと、歴史的な美術作品を中心に扱うフリーズ・マスターズの両会場に出展。合わせて20点超を販売し、売上総額は1100万ドル(約17億4000万円)を超えた。
その中で最も高額だった作品は、ヤン・ブリューゲル(父)の《炻器の花瓶に生けた花の静物画》(1607–8)で、約500万ポンド(約10億4000万円)だった。ハウザー&ワースの共同創設者で社長のイワン・ワースは、「これは、私たちがこれまで扱ってきた中でも最も重要な作品の一つです。17世紀に制作された絵画ですが、現代のアーティストたちが、自らの創作活動において手本とするような天才画家の典型的な例として、際立っています」と話した。
そのほかには、フランシス・ピカビアの1940年代の作品《無題》が110万ユーロ(約1億9500万円)、《透明、女の顔(Transparence, visage de femme)》(1928–29)が数十万ユーロ(数千万円〜1億円台)で売却された。スパーリングは今年の同フェアについて、次のように語った。
「今朝は会場に凄まじい活気がありました。特に目立ったのは、かつては歴史的な美術作品を中心に収集してきたコレクターたちが、今ではコレクションを補完するために現代作品に注目し始めていることです」。
現代作品としては、エイブリー・シンガーの《Solver (v.3)》(2026)が80万ドル(約1億2640万円)で売れたほか、ジョージ・コンドの《人物の構図(Figure Composition)》(2026)は60万ドル(約9480万円)、イ・ブルの《ペルデュ-シルエットVII(Perdu—Silhouette VII)》(2026)は29万ドル(約4582万円)、クリスティーナ・キメゼの《ゲーム開始(クレーンのカット)(Game on (crane’s cut)》(2026)は19万5000ドル(約3081万円)で販売されたという。
フリーズ・ロンドンに設けられたリーマン・モーピンのブースでは、15万ドル(約2370万円)のマッカーサー・ビニオンの《dna:sketch》(2024)など、10点以上の作品が売れた。その他の注目作には、14万ドル(約2212万円)のライザ・ルー《Azure》(2015)や、6万ドル(約948万円)のアレックス・プレーガー《Ceremony》(2026)がある。同ギャラリーはまた、ビリー・チャイルディッシュによる新作絵画3点(5万~6万ポンド/約1045万~1254万円)から、フレイヤ・ダグラス=モリスの新作絵画2点(3万~5万ポンド/約627万~1045万円)、ラナ・ベグムの新作2点(2万5000~4万ポンド/約523万~836万円)まで、イギリスを拠点とする多彩なアーティストの作品を複数の個人のコレクターに売却したと発表した。
海外のコレクターを引きつける、奥行きあるアートシーン
初日に作品の販売に成功したギャラリーの関係者たちは、ロンドンには訪れた人を元気にするような活気があると口をそろえる。ロンドンで自分の名前を掲げたギャラリーを運営するセイディ・コールズは、US版ARTnewsに次のように語った。
「ロンドンは活気に満ちています。アート・バーゼル・パリに近いことも追い風となって、多くの国際的なコレクターや美術館関係者がまずロンドンを訪れ、その後パリへ向かっています。一石二鳥ですし、しかも全く異なる2つの成果が得られるというわけです。ロンドンには奥行きがあり、傑出した新進のギャラリーから、美術館での大規模な展覧会に至るまで、訪れる人に提供されるものが非常に多いのです」
ペロタンのブースでは、加藤泉の絵画と彫刻が展示され、1点あたり最高25万ドル(約3950万円)で売却された。同ギャラリーでは他にも、オリ・エップの新作絵画が1点あたり5万5000ドル(約869万円)で、シム・ムンソプの絵画が6万3000ドル(約995万円)以上で売れるなど、注目すべき成果があった。また、ヴェネチア・ビエンナーレで物議を醸しながらアメリカ代表を務めたアーティスト、アルマ・アレンの彫刻も出品され、6万ドル(約948万円)で売却された。同アーティストはまもなくパリのペロタンで個展を開催する予定だ。
デイヴィッド・ツヴィルナーは13点を販売し、売上高は455万ドル(約7億1890万円)に達した。売上額の上位5作品は、ミヒャエル・ボレマンスの絵画(150万ドル/約2億3700万円)、ダナ・シュッツの作品(90万ドル/約1億4220万円)、リサ・ユスカヴァージの作品(45万ドル/約7110万円)、ポルティア・ズヴァヴァヘラの作品(30万ドル/約4740万円)、そしてサーシャ・ゴードンの作品(40万ドル/約6320万円)であり、後者は同ギャラリーが名称を明かさなかった欧州の美術館に売却された。デイヴィッド・ツヴィルナーのロンドンのギャラリーでアソシエイト・パートナー兼ヘッドを務めるジェームズ・グリーンは、US版ARTnewsに対して「フリーズ・ロンドンは依然として多くの人々を惹きつけていて、それは地元のコレクターだけにとどまりません。初日の午前中から、海外からのお客様の出足も好調でした」と話した。
ホワイト・キューブは、通常のように作品を壁に掛けるだけでなく、イラナ・サヴディが選んだ、過去の作家たちによる紙作品と自身の作品を金属製のフレームに展示する試みを行った。同ギャラリーの売上高は155万ドル(約2億4490万円)を記録し、サヴディの絵画《The Great Compromise》(2026)は17万5000ドル(約2765万円)、《Conspiracy of the Barons》(2026)は16万5000ドル(約2607万円)で売れた。サヴディはUS版ARTnewsに「ここ(ロンドン)のような場所の歴史は、本当に無視できないものです」と語り次のように続けた。
「私は、ロンドンを拠点としてきた多くのアーティストや、ここで起こった芸術運動に注目しています。インスピレーションを得られる素晴らしい美術館もたくさんあります。まだ十分な時間を過ごしていないので、深く語ることはできないのですが、私もロンドンの大ファンです」
エデル・アサンティ(ロンドン)の売り上げには、ソーントン・ダイアルの絵画2点が含まれており、16万〜23万ドル(約2528万〜3634万円)の価格帯だった。
フリーズには、地元からも遠方からもコレクターが集まった。ドバイを拠点とするチュニジア人コレクターのセリム・ブアフスンは、US版ARTnewsの取材に対し、ジョージアの首都トビリシのギャラリー、ブキア・ヴァハニアからタモ・ジュゲリの《Swan in Lake》(2026)を4万ドル(約632万円)で、ロンドンのエマリン・ギャラリーからジョナサン・オコロンクウォの《Wilderness Be the Anthem Rydee》(2026)を2万ユーロ(約354万円)で購入したと語った。また、カルマ(ニューヨーク、ロサンゼルス)からは、ジェイコブ・リトルジョンの《Over the Rills, the Crags, and the Hills》(2025)を8000ドル(約126万円)で手に入れたという。
ベルギー人コレクターのアラン・セルヴェは、エーリッヒ・スタインバーグ(ロサンゼルス)からエラ・フレックの《Training Material》(2026)(3点限定版のうちの1点)を1万4000ポンド(約293万円)で購入したと語った。
ペース・ギャラリーは、この日の午後3時までに、ブラジル人アーティスト、マリーナ・ペレス・シマオの絵画の大部分を最高25万ドル(約3950万円)の価格で売り切った。ペースの最高経営責任者マーク・グリムシャーはUS版ARTnewsの取材に対し、コレクターの年齢層の幅広さを強調して、「今日は70代という年輩のコレクターから、20代の非常に若いコレクターまで、多くの人が作品を購入してくれました」と語った。

彫刻家レオンチッロに再評価の機運
隣接するタデウス・ロパックのブースもほぼ完売に近く、レオンチッロの通称で知られるイタリアの彫刻家レオンチッロ・レオナルディ(1915–68)の作品が国際的なバイヤーを惹きつけた。レオンチッロはイタリアの愛好家からは高く評価されてきたが、他国ではほとんど知られていなかった。しかし、今では一定の再評価の波に乗っている。ロパックは6月、新たな財団の設立と併せて、レオンチッロを扱うことを発表していた。ロパックで売れた特に高額の作品としては、56万ユーロ(約9912万円)のマルタ・ユングヴィルトの作品《Untitled (Berggasse 19)》(2026)、50万ポンド(約1億450万円)のアントニー・ゴームリーの《Aside》(2025)、38万ユーロ(約6726万円)のエイドリアン・ゲニーの《Untitled》(2026)などが含まれている。
グザヴィエ・ユフケンスは、リチャード・セラの紙の作品(75万ドル/約1億1850万円)、ルイーズ・ブルジョワの紙の連作(40万ドル/約6320万円)、トレイシー・エミンのネオン作品2点(9万5000~10万5000ポンド/約1986万~2195万円)など、計16点以上が売れたと報告している。
新進ギャラリーからも「過去最高の年」との声
「フォーカス」セクションに出展した新進ギャラリー数社も好調だった。アムステルダムを拠点とするディエズ・ギャラリーは、ジェシカ・ウィルソンのビデオ・インスタレーション《Sweet Nothing》(2025–26)を2万ユーロ(約354万円)超でセントラル・ミュージアム(ユトレヒト)に売却した。ディーラーのディエゴ・ディエズはUS版ARTnewsに、「前回のフリーズ・ロンドンは私にとって非常に厳しいものだったのですが、そこで底を打って以来、ギャラリーは財務面でも新たなコレクションへの作品収蔵という面でも、過去最高の年を迎えています」と話した。
ロンドンのギャラリー、ハイディのディーラー、ガブリエラ・プライスは、今年「新たな機会を追求するため」に事業をベルリンからロンドンに移転したと語った。「今のロンドンは本当に素晴らしい街だと感じます。フリーズの《フォーカス》セクションは、数々の賞の授与や助成金の授与が行われることで、非常に大きな注目を集めています」と彼女は述べた。
ロサンゼルスを拠点とするギャラリー、ザ・ピットのディーラー、アダム・D・ミラーは、新たな意気込みを持ってフリーズに戻ってきた。ブースではベラ・フォスターの個展を行い、展示した絵画の3分の2を売り上げた。「特にヨーロッパやイギリスの美術館との関係をさらに深めていきたいと願っています」と語った。
一方、フリーズ・マスターズでは、アンドリュー・エドリンが、フランク・ウォルターと、ヴェネチア・ビエンナーレに出展中のビバリー・ブキャナンの作品を展示するブースを出展した。同ギャラリーによると、ある主要美術館の理事長が、ブキャナンの1990年代の作品を6万5000〜12万5000ドル(約1027万〜1975万円)の間で購入したという。
ロンドンのギャラリー、ロビラントのブースでは、ミケランジェロ・ピストレットの鏡の作品が4万5000ユーロ(5万9300ドル/約797万円)、ルーチョ・フォンタナの陶芸作品2点が売れた。フォンタナの《闘牛》の価格は12万5000ユーロ(16万4900ドル/約2213万円)、《空間概念》は25万ユーロ(32万9700ドル/約4425万円)だったという。ディレクターのミケーレ・ディ・ロビラントは「投機的な動きから安定志向へと振り子が振れ、お客様はすでに価値を維持できることを実証済みのアーティストに注目しています。その中で、オールド・マスターズへの関心が再び高まっています」と語った。さらに、「顧客は確かにハイエンド市場で再び足場を固めつつあります。トンネルの先に光が見えているのです」と述べ、市場のトップ層について楽観的な見方を示した。(翻訳:清水玲奈)
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