落書きに紛れていた旧石器時代の彫刻280点、スペインの洞窟博物館で発見

スペイン・カタルーニャ地方の観光名所となっている洞窟博物館で、何十年も見過ごされていた旧石器時代最大級の岩面彫刻群が発見された。周囲には来訪者の落書きや削った跡などが多数あったという。

種類の異なる岩の境目を地面を表す線として描かれた馬。Photo: Study authors

イベリア半島の地中海沿岸地域で発見された旧石器時代最大級の洞窟彫刻群についての研究論文が、今月発行の考古学学術誌アンティクィティ(Antiquity)で発表された。2019年にスペイン・カタルーニャ州の観光名所、フォン・マジョール洞窟(Cova de la Font Major)で見つかった多数の壁画は、旧石器時代の人口規模や地域特有の芸術表現に関する新たな知見をもたらすものと考えられている。

従来の記録によると、旧石器時代の洞窟壁画の半数以上はイベリア半島に集中しているものの、半島北東部にはほとんど存在しないと長らく考えられてきた。その通説を覆したのが、フォン・マジョール洞窟で発見された280もの具象的・非具象的な岩面彫刻だ。それは、同地域がこれまで推定されていた規模を上回る人口の居住地だった可能性を示唆し、さらに独自の芸術的伝統を有していたことを物語っている。

洞窟の壁面には後世の彫り跡や落書きが数多く残されており、少なくとも900年ほど前からこの洞窟を訪れる人がいたことが分かる。古代ローマ時代(2世紀〜5世紀)のある時点で主要な入り口は崩落してしまったが、1199年と彫られた跡があることから、11世紀以降にも岩の裂け目や別の入り口を通って人々が内部に立ち入っていたことがうかがえる。

1853年の時点では私有の井戸から洞窟に入ることができたというが、1956年にピレネー・ハイキング・センターのメンバーによって調査・測量が行われるまで来訪者はまばらだった。1957年にカタルーニャ州の自治体、レスプルーガ・デ・フランコリの議会が入り口をアクセスしやすいように整備し、1993年には洞窟博物館になっている。

そして2011年、1957年の整備でなくなったはずの古い入り口の一部が現存することが研究者らによって確認された。それをきっかけに、この洞窟遺跡は2018年の調査プロジェクトの対象に加えられ、翌年の発掘調査で最終氷期にさかのぼる岩面彫刻が発見されている。洞窟の壁面を覆っていた多数の落書きの中に、旧石器時代に彫られたと思われるものがあると、今回発表された論文の共著者の1人が気づいたのだ。

カタルーニャ人類古生態学・社会進化研究所(IPHES-CERCA)の所属で、論文共著者のジョゼップ・マリア・ヴェルジェスは、そのことを次のように記している。

「60年以上にわたり、大勢の来訪者が彫刻の施された壁面を目の前にしながら──時にはその上に自らの名前や日付を刻み込むことさえあったにもかかわらず──そこに描かれた図像が旧石器時代のものと気づかずに通り過ぎていたのです」

洞窟内の複数の小さな展示室で見られるこれらの彫刻には、さまざまな動物の描写に加え、抽象的な記号の一群がある。その中には、何百ものリング状の刻み目で構成される、ひときわ特徴的なものも含まれている。

さらに、フォン・マジョール洞窟にあるようなデコボコした礫岩は、原則的には洞窟壁画を描くのに向かない。しかし、この岩面彫刻を残した人々は、そうした不規則な形状を巧みに構図に取り入れている。たとえば、異なる種類の岩石が接する境界を基底線(地面を表す線)として図像を描いたり、岩の亀裂を水面に見立てたりしているのだ。後者の例としては、水を飲むシカを描いたものが挙げられる。

研究者のヴェルジェスは、「西ヨーロッパの地中海芸術は、新たに発見された岩面彫刻群によってその豊かさを増しました。独自のアイデンティティを持つ地中海地域の伝統的図像の特徴を、より深く捉えることが可能になります」と述べている。(翻訳:石井佳子)

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