小さな庵から「備え」を編み直す──「方丈記に学ぶ –生きるを編み直す小さな建築–」【EDITOR’S NOTES】

東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで、企画展「方丈記に学ぶ –生きるを編み直す小さな建築–」が開催中だ。最古の「災害文学」として名高い鴨長明の『方丈記』を手がかりに、建築家やアーティストが一丈四方の「方丈」を試作する本展は、防災庁が発足した年に、災害と暮らしの関係を問い直す。

山口晃による《螺庵》。Photo by Asuka Kawanabe

11月2日、日本で防災庁が発足した。南海トラフ地震や首都直下地震など国難級の災害の発生が切迫するなか、災害が起きる前の事前防災を強化することが目的だという。

そんな折、六本木の21_21 DESIGN SIGHTでは、日本最古の「災害文学」として知られる『方丈記』を手がかりにした企画展「方丈記に学ぶ –生きるを編み直す小さな建築–」が開催されている。『方丈記』の作者である鴨長明はその障害で大火、辻風、遷都、飢饉、地震を経験し、父の神職を継ぐ道を阻まれたのち、住まいを転々と小さくし、最後は日野山に一丈四方(約3メートル四方)の庵を結んだ。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という『方丈記』の冒頭の一節は彼の無常観を表すものとして有名だが、これだけの災害と国の転機を経験すれば、さもありなん。

そんな『方丈記』を現代に引き寄せた「方丈記に学ぶ」展は、2つの展示室で展開される。最初の展示室で長明の庵の再現と『方丈記』の受容史を通して古典を読み解き、ふたつめの展示室で現代の建築家やアーティストがそれぞれの『方丈』を実際に試作するような構成だ。ちなみに試作と言ってもただ眺めるための展示模型ではなく、実際に中に入れる実寸大の空間として作られている。

最初の展示室にある「非実在空間としての方丈の庵」。

最初の展示室に入ると、中央に「非実在空間としての方丈の庵」が置かれている。『方丈記』の記述に記された要素だけを原寸大で取り出して並べたものだ(家財は台車2台に収まる量だったそうだ)。壁はなく、柱と梁で大きさだけが示されているので、長明が手放さなかった楽器や調度が目立つ。それを囲む壁面には『方丈記』が時代ごとに読み替えられてきた受容史が並ぶ。

小渕祐介と中村純の《歩く方丈》。

ふたつめの展示室でまず目に入る小渕祐介と中村純の《歩く方丈》は、家畜の飼料を入れるFRP製のタンク(サイロ)を転用した住まいだ。展示室ではもちろん静かに鎮座しているが、動かすとモーターでゆっくりと歩き、ときおり塩ビ管のパイプオルガンの音が響くという。小渕と中村が言うところの「建築のファスティング」、つまり機能を削ぎ落とすことで身体や自然への感覚を研ぎ澄ます試みであり、長明の「移設できる庵」を現代の技術で極めたものだ。

大室佑介+川長組の《物置小屋 移築計画》。

大室佑介+川長組の《物置小屋 移築計画》は、私小説家・川崎長太郎が小田原で20年暮らした物置小屋を、文学のなかから現実の空間へ移築した作品だ。実物は台風で失われ、設計図も残っていないため、手がかりは小説の記述や残された写真、関係者の記憶だったという。中に入ると、畳2枚にビール箱の机という最小限の暮らしが身体の大きさでわかる。

山口晃による《庵案》。

画家の山口晃による《螺庵》をはじめとする作品群は、山口が絵画で培った観察をそのまま空間に移した庵である。近づいて見ると、トイレをどうするのか、安心して眠れるのかといった暮らしの心配ごとへの答えが、ひとつひとつ形になっている。他者との関係のなかで成立する住まいだ。

須田悦弘の《朝顔》。

そして、気をつけなければ見逃してしまうほどささやかに展示されているのが、精巧な木彫で知られるアーティスト、須田悦弘の《朝顔》と《桔梗》だ。長明が露と無常を重ねて詠んだ花を、何もない場所にひっそりと置いた、最小限の介入だ。その介入で、コンクリート打ちっぱなしの空間をいつもと違う空間にしてしまおうという、どこかいたずらっ子の笑いが思い浮かぶような作品だ。

本展のディレクターである建築家の塚本由晴はディレクターズ・メッセージのなかで、国土強靭化の掛け声のもとで管理や監視が強まり、「以前はできたこと、楽しめたことができなくなっている」と述べている。コメをはじめとする食品や、電気などのエネルギーをサービスに依存しきっている暮らしへの違和感だ。サブタイトルの「生きるを編み直す」は、その対案として置かれている。

さて、わたしたちは自分たちが生活に最低限何を必要とし、それがどこから来ているのか理解しているだろうか。初代防災相の細野豪志は、防災庁の発足を機に1週間分の備蓄を呼びかけた(もちろん備えは大切だ)。この国の防災が「強靭化」として志向する、被害に耐える強さに対して、ここにあるのは無常を前提にした構えである。歩く方丈は自ら移動し、川崎の小屋は失われたあとに言葉と記憶から建て直された。そもそも長明の庵自体、解体して運べる造りだ。今の言葉で言い換えればレジリエンスだが、それは逆境にあらがう力というよりも、どこでもたくましく生きていく術のことを指す。

というわけで、備蓄を点検するついでに、六本木で小屋の中に立ってみてほしい。自分の暮らしには何が必要なのか。壊れたあとに暮らしをどう組み直すのか。それを考えるヒントは、一丈四方ほどの、身体で測れる大きさのなかにあるのかもしれない。

「方丈記に学ぶ –生きるを編み直す小さな建築–」
会期:2026年8月28日(金)〜2027年1月11日(月・祝)
場所:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2(東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン)
時間:10:00〜19:00(入場は18:30まで)
休館日:火曜日、11月21日〜23日、年末年始(12月27日〜1月3日)
料金:一般1,700円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料

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